キューブラー=ロス・モデルの扱い方:他人事か我が事か

なるほどねえ。「キューブラー=ロス・モデル」を使うことそのものが問題だとは、私は思いませんけど、その使い方に問題がないとは言えないでしょう。

死ぬ瞬間―死とその過程について (中公文庫)

死ぬ瞬間―死とその過程について (中公文庫)

社員を末期患者扱い 人材大手が作成“クビ切り手引き”の仰天
2016年2月26日


マニュアルには「死」の言葉が…(C)日刊ゲンダイ

 末期患者が「死」を受け入れるプロセスを「クビ切り」の参考にしていた。本紙は、製紙大手の王子HDが昨年10月に退職勧奨の面談担当の社員向けに配った内部資料を入手した。表紙の左上に「厳秘」、右上には「コピー厳禁、施錠保管 プロセス終了後回収」と記された完全極秘の“クビ切りマニュアル”だ。

 作成したのは、王子HDの退職勧奨を無償で支援し、国の助成金を受ける再就職支援業務を受託した大手人材会社テンプHDの子会社だ。みっちり5時間かけて担当社員に退職勧奨のノウハウを伝授していた。

 驚くのはクビ切り対象であるローパフォーマー、いわゆるローパー社員の「心理ステージの変化」として、「キューブラー・ロスのモデル」を参考に挙げていること。この言葉は、ドイツの女性精神科医が提唱した末期患者が死を受容するまでのプロセスを指す。

 (1)自分が死ぬはずはないと「否認」(2)なぜ自分がこんな目に遭うのかという「怒り」(3)神にもすがろうとする延命への「取引」(4)取引がムダと認識し、すべてに絶望を感じる「抑うつ」――と4段階を経て、最終的に死を安らかに受け入れる「受容」にたどり着くとする学説で、マニュアルには「面談を重ねること+事前キャリア相談を経験すること+時間経過=受容(決断)につながる」なんて書いてある。

 クビ切りの対象とはいえ、従業員を末期患者になぞらえるとはムチャクチャだが、マニュアルでは「退職強要」とならないための“違法スレスレ”のリスク回避策がズラリ。面談担当の心得として「重要なのは傾聴スキル」と説き、面談における応答の基本軸として以下の“心理戦術”を披露している。

「例:会社は将来の持続的成長を確実にするために改革を実施しなければならない→一般的にこうした変革の必要性には反対しません。こうした総論の合意形成から、対象者の社外転身の必然性につなげます」

「新体制では○○さんに適した職場を用意することは極めて難しい→対象者のこれまでの貢献には感謝する姿勢がお勧め。ただ、変革の中では今後は“適した職場”を準備することが難しい視点を強調します」

 ローパー社員を「神経戦」に引きずり込み、相手の神経が参るまで追い詰める作戦だ。最新のクビ切りノウハウは、えげつない。

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/176027

「死の受容」をめぐってキューブラー=ロスが提示した「悲しみの5段階」モデルは、死をめぐることに限らず、様々な悲しみの場面で想起することが可能なものです。

失業後に訪れる「悲しみの5段階」を乗り越える方法 | ライフハッカー[日本版]

他方、ここで個人的に気になるのは、「死」から導かれたモデルを「クビ切り」に応用するにあたって、この5段階を徹底的に「他人事」としてとらえてないか、ってことです。「いつか自分もそちら側に回る」ということが、どれほど念頭にあるかどうか。

キューブラー=ロス自身が、『死ぬ瞬間』の後、自らの死とどのように向き合い、どっちの方向に向かっていったのか、少し読み返してみてもいいかもしれません。

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫)

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫)