【横浜の風景】ドリームランドの夢の跡・2:横浜市営墓地メモリアルグリーン

こちらの続き、というか本題です。

blue-black-osaka.hatenablog.com

「話には聞いていた横浜のメモリアルグリーンを実際に見る」というのが、横浜ドリームランド跡地訪問の本来の目的でした。

わりと有名な施設ですので、ネット上にもいろいろな情報が出ています。

www.memorialgreen.jp
en-park.net
http://www.enjoy-mylife.net/funeralreport/memorialgreen/www.enjoy-mylife.net

韓国でもその筋では知られたところです。

blog.daum.net
ending.co.kr
www.sjnews.co.kr

では、現地へ。なるほど、これは噂通りの立派な施設ですね。

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まず見えてくるのは、正面通路の両脇に広がる芝生に立ち並ぶ墓碑群です。公設墓地らしく、お墓の形や大きさは定型的にあらかじめ定められており、表面の石板部分が自由にデザインできるスペースということになっているようです。

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驚いたのが、周囲の花壇や木々もさることながら、墓地区画内の芝生の厚さ。スポーツをするには不便なほどのフカフカさです。手入れをサボって伸びているわけでは決してなく、そうなるように丁寧に手入れされています。

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このエリアを過ぎると見えてくるのが、敷地の中央に位置する造形物。これは慰霊碑で、その下に骨壺を収納する合葬型納骨施設が設けられています。慰霊碑周辺に個人名はなく、碑の前の献花台に献花して参拝する形になります。

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この慰霊碑の周辺にはさらに芝生型の墓域が広がっています。またさらに、それらの墓域の間に、3か所の樹木葬の墓域も設けられています。ここの樹木葬は、象徴木の植えられた墓域に直接骨壺を埋蔵するいっぽう、個々の墓碑は設けずに手前の献花台で参拝するという形式になっています。

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合葬式といい、樹木式といい、その名前はともかくとして、散骨や合葬によって遺骨の個別性を解消するのではなく、「(個別性の維持された)骨壺で納める」という形は一貫しています。他方で、芝生型の墓域以外では個別の墓標は認められておらず、表面上は匿名性と抽象度の高い施設になっています。

しかしまあ、開設に当たっての地域住民との話し合いの中で「線香の使用が禁止された」といった話も聞きますけど、公園として見た時の見た目の美しさ・環境のよさは抜群です。墓碑の立ち並ぶ明らかな墓地でありながら、陰鬱さはほとんど感じられません。この「快適さ」は、「公園型墓地の理想形」と言っても過言ではないと思います。

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ただし、この施設には一つ、致命的な問題があります。それは、2006年に開設されたこのメモリアルグリーン、満場となるにともなって、2013年に募集を終了してしまったことです。

サイト上の説明(http://www.memorialgreen.jp/cemetery/)によると、芝生型の使用期間は「永年」もしくは「30年」、慰霊碑型が「30年」、樹木型が「永年」となっています。また、芝生型と慰霊碑型は改葬(遺骨の移動)や分骨が可能で、樹木型はそれが不可能となっています(こちら参照)。

つまり、開設からたかだか8年で募集を終了してしまったメモリアルグリーンは、個別事情による改葬や墓地返還*1を除けば、永年使用の墓地については原則そのまま維持され、芝生型墓地の一部の「30年」使用の墓地と慰霊碑型の納骨施設のみが、2036年頃からぼちぼち募集されるかも、といった状況であるわけです*2

ということは、少なくとも20年ほどの間、新規募集もほとんどないメモリアルグリーンは、たまたまタイミングとクジ運がよかったことによって入居できた人々(とその遺族の方々)以外の人にとっては何の縁もない施設として維持され続けなければならない、ということになります。一般人が散策できる「公園」でもありますけれど、墓域はしょせん葬られた人のための私的な場所、公営の公園墓地がそうした私的空間に埋め尽くされて流動性を失い、排他的な既得権化してしまっては、公平性という点からしてちょっとまずいのではないでしょうか。

もちろん、大都市・横浜の墓地需要に応じるのは簡単ではありませんし、メモリアルグリーン単独でそれを満たすことができるわけもありません、が、公営である以上は、たとえ高い倍率になろうとも一定程度は供給を確保し続けなければ、その存在意義が問われます。メモリアルグリーンの場合、「墓地の供給量やそのペース、また使用期限の設定などの点で、バランスが取れていなかった」と言えると思います。

この問題を解決するにはやはり、全墓域での使用期限の設定*3と、その使用期限到来までの間、供給を絶やさないための規模の確保や供給ペースの調整などが必要です。その点、最近ちょっとブレていますけど、韓国が「葬事等に関する法律」で墓地の使用期限を法律的に定めたことは、日本でも参照するに値する事実です。

いわゆる「樹木葬型墓地」 - 全日本墓園協会
http://sonae.sankei.co.jp/ending/article/150116/e_bochi0001-n1.html

*1:「これだけ条件と環境のよい墓地から他の墓地に敢えて移る」というケースが頻出するとは、あまり考えられませんが…。

*2:しかも、30年使用の場合も更新は可能です。なお、更新手続きがされない遺骨は、「合同埋蔵室」へ移され、その時点で個別性を喪失することになります。

*3:ここで念のために付言しておくと、墓地の「永年使用」と死者の「永代供養」とは、概念として切り離して区別することが必要ですし、それは必ずしも不可能ではないと考えています。