「悪質な引き留め」とか「退職トラブル」とかいった和らげた表現が使われていますけど、これ紛れもない違法行為ですから。「理解が行き届いていない」とか、そういう問題とちゃいますから。
こんなもん、労働組合や労働行政のレベルで引き受けて対処せなあかんことでしょう。ビジネスチャンスになんかさせたらあかんですよ。
「退職認めない」 悪質な慰留横行、解雇相談上回る
真相深層 社会
2018/9/18 20:30 日本経済新聞 電子版転職したいのに会社が退職を認めず、離職票さえ渡さない――。そんな退職トラブルが全国で多発している。人手不足に悩む企業が引き留めに動いたためで、厚生労働省に持ち込まれた相談件数は解雇の相談を上回った。悪質な引き留めは、成長産業への人材移動を阻んでいる。
■退職届を受理せず
就労時の義務や退職の権利を事前に教える動きがある(千葉県柏市の柏わかものハローワーク)「退職トラブルの間は笑えなかった。食事も取れず心は泥沼だった」
2017年11月から今年1月まで、首都圏の大手専門商社を退職しようとして執拗な引き留めにあった営業職の女性(25)は振り返る。女性が活躍できる職場を求め人材サービス業の内定を得たが、上司は「絶対辞めさせない」と面談を拒否。退職届すら出せないまま2週間放置された。
転職予定先からは心配する声が届き、身の置きどころがない。意を決してコンプライアンス部門に直訴したところ、ようやく手続きが始まった。だが入社日は予定から1カ月も遅れてしまった。
退職届を受け付けない、離職票がもらえない――。17年度、全国の労働局に個別労働紛争として寄せられた自己都合退職のトラブル相談は3万8954件。解雇相談を17%上回った。リーマン・ショック翌年の09年度には解雇相談が引き留めの4.1倍あったが、16年度に逆転。17年度はさらに差が広がった。
特に変化が目立つのが地方だ。17年度は東京や福岡など労働力人口の多い大都市を除いた41道県で、引き留め相談が解雇を上回った。
特定社会保険労務士の須田美貴氏は、この1年で引き留め案件を9件扱った。その多くが中小企業。「5月には、小さな出版社を辞めようとした30代の女性が『ここまで育てたのに何だ』と圧迫された。中小企業の経営者から『君が辞めて損が出たら賠償請求するぞ』とすごまれた話もよく聞く」と実情を明かす。
■人手不足が背景 人材移動阻む
背景には人手不足がある。地方では地場企業の経営者の力が強いといった事情もある。引き留め相談が特に多い長崎労働局の内山昭宣雇用環境・均等室長補佐は「地方でも人材が不足するなか、高圧的な経営者の引き留めに抵抗できる人が少ない」という。
保身に走る管理職の意識も影を落とす。冒頭の女性は「面談を拒否した上司は女性部下の退職で評価が下がるのを嫌がっていた」と振り返る。
こうした過度の引き留めは戦前にみられた労働の強制に通じる面さえある。その反省から戦後定められた労働基準法は、5条で精神的、肉体的強制で労働者を意に反して働かせることを禁じ、10年以下の懲役など同法で最も重い罰則を科した。
また民法627条は期間を定めない無期労働契約で働く人が退職を申し出たら、2週間で退職できると規定。退職時のマナー問題を別にすれば法的には企業に退職自体を拒否する権限はないが、現場では労使ともに理解が行き届いていない。
■退職代行ビジネスも登場
それを示すのが「退職代行ビジネス」の登場だ。パワーハラスメント的な引き留めを恐れる人から依頼を受け、本人に代わって退職届を提出する。例えばEXIT(東京・新宿)では手数料5万円で代行している。民法の2週間後退職規定を応用した新業態だ。
同社の新野俊幸共同社長(28)は「弁護士法への抵触を避けるため、退社条件の交渉は一切行わず、退社意思の伝達に徹している」と話す。昨年5月の創業以来、約1000人の依頼を受けた。20代前半の男性からの依頼が多いという。
強引な引き留めを受け、労働局に対して実質的な金銭解決である「あっせん」を申請する人も増えてきた。労働者が泣き寝入りする図式は成り立たなくなっている。
エン・ジャパンが昨春実施した調査によると、退職希望者に昇給などの「カウンターオファー」を提示した企業は65%あった。それでも6割の企業が成功確率が「20%以下」と回答。正当な説得であっても、辞めたい人の引き留めは難しい。
生産年齢人口が減るなか、政府は成長産業への人材移動を後押ししている。過度な引き留めは、自由な労働市場の妨げになっている。
(礒哲司)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35486420Y8A910C1EA1000/