自立と支援の話:「8050」から「9060」へ、その先はもうない。

引きこもり、介護、貧困、孤立…。いろいろなところにつながっていますけど、まとめると「自立と支援」の問題だと思います。

自分の食い扶持を自分で何とかできる人が、その余力をもって支えが必要な人を支える。その関係が親子の間でいつまで経っても解消されないのがいわゆる「8050」問題なわけで。親世代が持っている「余裕」が、その「余裕」のない子世代を辛うじて支えるという構図。これ、専業主婦家庭も基本同じ図式で、支える側の「余裕」が失われれば、どっちも崩壊の危機に晒される。

その時に必要なのは、「自立したうえで他者をケアする」層の厚みを可能な限り増やすこと。高齢者が働き、女性も働くことが求められるのはその文脈から導き出されることですし、もう少し具体的にかつ一般化して言えばそれは「従来は無職者であった人たちを有職者にして勤労人口割合を増やす」ということです。

その意味で、この記事に出てくる子世代の自立促進は、高齢者や女性に対するのと同じように求められる…のですが、それは年齢を重ねるほどに(20代より30代、30代より40代、40代より50代、50代より60代…)難しくなっていきます。「9060」世帯の子世代ともなると、今さらもう自立を促すこと自体が厳しくなっていく。

だからと言って、そこで切り捨てるわけにはいかないですよ。死ぬまで自立できる人間なんてまずいないんです。みんないずれ支えられる側に回ります。自分が支えられる時のことを考えれば、「余裕」がなければ「余裕」を削り出してても、支えが必要な人を支えるほかに道はありません。

そこで少しでも「余裕」を残しておきたければ、彼らのことを放置していいわけがないのです。

「いっそまとめていなくなってしまえばいいのに」とか思います?そう思うのはまあ自由ですけど、大人しくひっそりといなくなると思っているなら甘いですよ。その時にはあなたも道連れです。自分だけ逃げれると思うなよ。

無職独身40~50代が親の収入頼み、推計57万世帯
岡野翔、後藤泰良 2020年3月30日 5時00分

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「リスク家庭」の推計世帯数

 無職で独身の40~50代の子が高齢の親と同居し、生活費を親に頼っているとみられる家庭は2013年時点で推計約57万世帯あり、1995年からの18年で約3倍に増えていたことがわかった。このうち子が40代の家庭は推計約38万世帯で、50代の家庭の約2倍だった。朝日新聞立命館大山本耕平教授(精神保健福祉論)が、国の統計情報から試算した。

 こうした家庭は、ひきこもりなどの課題を抱えて社会から孤立する「8050(ハチマルゴーマル)問題」に陥りやすい。この問題に詳しい山本教授は「7年後の今、事態はさらに深刻化している可能性が高い」と話す。

 8050問題の公的な定義はないが、山本教授によると、無職、独身の子が高齢の親の収入に頼って同居する中で、ひきこもりや介護、貧困などを抱えて孤立しがちになる実情がある。

 今回、試算に使ったのは厚生労働省の審査を経て提供された国民生活基礎調査の匿名データ(95、04、13の各年版)。13年版が最新で、家族構成や就業、健康、年金受給の状況など約10万人分の情報を含む。情報処理などの作業は専門機関「統計情報研究開発センター」に委託した。

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8050リスクとは

 8050問題の特徴を踏まえ、匿名データから無職(または家事従事)で独身の40~50代の子と、60代以上の親が同居し、親の所得(年金を含む)が子より高い世帯を抽出。「8050問題に陥るリスクを抱えやすい家庭」と位置付け、集計した。

 13年は、データ上の全3万8882世帯のうち440世帯(1・1%)が該当した。厚労省が全国の推計値を出す際の計算方法に沿い、該当世帯主の数(440)に人口比ベースの係数を掛けると、推計約56万8340世帯だった。95年データを基にした推計世帯数の3・2倍、04年の1・6倍だった。

識者「リスクさらに高まる」

 山本教授は「長期不況や労働環境の悪化、未婚率の上昇、格差の広がりなど複合的な要因が考えられる」と指摘。人口が多い「団塊ジュニア」ら就職氷河期に直面した人たちが40代になった影響もあるという。

 その上で「生活困窮者自立支援制度が15年に始まったものの、公的な支援策が有効に機能してきたとは言い難い。13年時の『7040』(親が70代、子が40代の家庭)が『8050』へと移行しつつあり、現在はリスクがさらに高まっているだろう」と分析する。(岡野翔、後藤泰良)

「恥」として、助け求めないことも

 8050問題を抱える家庭では、ひきこもりや親の介護、病気などを背景に、子が社会参加できていないことが多い。親が「恥」と受け止めてしまい、助けを求めないこともある。困窮や孤立が深まれば、共倒れになりかねないが、問題を抱える家庭がどれだけあるかなどの実態はほとんど明らかになっていない。

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本人や家族の相談先

 子は年齢を重ねるほど就職などが難しくなり、十分な貯蓄がないと生活費を親に頼り続けることになる。山本耕平立命館大教授は「課題は家庭ごとに違うため、オーダーメイド型の支援が不可欠。自治体は困っている家庭を探し出し、どのような支援が求められているかを把握すべきだ」と話す。

「意欲はあるのに働けない」

 国民生活基礎調査の匿名データを使った朝日新聞と山本教授の試算では、8050問題に陥るリスクを抱えやすい家庭が全国で約57万世帯(13年)と推計した。親子の年代別の構成では「7040(親が70代、子が40代の世帯)」が全体の46%で、「8050」(20%)、「6040」(14%)と続いた。

 同調査には、仕事や健康に関する複数の質問項目があり、子の回答内容を分析すると、40代は就業を希望する割合が50代より高かった。一方、家族の介護や健康への不安から、すぐに仕事に就けないと答えた人も5割弱いた。「意欲はあるのに働けない。状況に見合った仕事が見つからない」といった姿が浮かぶ。

 8050問題の関連研究としては、総務省統計研究研修所の西文彦教授の論文「親と同居の未婚者の最近の状況」(16年)がある。同省の労働力調査から、親と同居する壮年(35~44歳)の未婚者のうち、失業者や非正規労働者らを「基礎的生活条件を親に依存している可能性がある」と位置付け、「親子共倒れ」のリスクを抱えた人が、95年は17万人、05年は48万人、13年は63万人と推計した。

 西教授は自身の研究と今回の試算を比べ、「リスクを抱える人たちの増加傾向が一致している。今回は、抽出条件に家庭の所得状況も含まれ、対象がより正確に絞り込まれている」と指摘。「対策を検討する上で参考にできる数値が出たのではないか」と話した。

 一方、内閣府は昨年、40~64歳でひきこもり状態の人が全国に約61万人いるとの推計を公表している。(岡野翔)

https://digital.asahi.com/articles/ASN3Y6VSVN3CUUPI003.html