もしかしたら、東京からすれば、大連と釜山と苅田との心理的な距離感は、比較してみてもさほど変わらないのかもしれません。
島根県なんて、距離的にはそのラインよりも東京寄りなんですけど、こんな主張をしないといけない有様です。
2013年4月29日
(限界にっぽん)第3部・超国家企業と雇用:2 「国内に残すなら賃下げ」
ソフトウエア開発会社傘下の「華信IT培訓(トレーニングセンター)」で、ITや日本語を学ぶ中国人大学生ら=大連市の大連ハイテク産業区、千葉卓朗撮影
日本と韓国の二つのナンバーをつけたトレーラー=福岡県苅田町
企業は株主への配当を増やしているのに、人件費は抑えている/正社員の給与は減っている■フラット化する賃金 ソフト外注、中国に殺到
「創先争優(先端的なモノを作って頑張ろう)」。壁に標語の文字が躍る広大なフロアで、400人以上の技術者がぎっしり並んだパソコン画面に向かう。
中国・大連にあるIT大手「大連華信」が入るビル。米国のIBMやマイクロソフトなど約4700社が集まる「大連ハイテク産業区」の一角にあり、5千人を超す従業員を抱える。
「人材が多いのがうちの強み。大きな仕事でも対応できる」と大連華信の凌礼武・副総裁は言う。仕事の6割は、NECなど日本の大手システム開発会社が日本企業から受注した様々なソフトづくりだ。主要な日本の顧客ごとに専用の事業部をもうけ、仕様書は日本語、あちこちで日本語が飛び交う。
人件費が安い新興国の企業を使ってコストを削る「オフショア開発」と呼ばれる手法だ。この数年で2倍以上に伸びた日本企業のオフショア開発の中心地が大連だ。
働いているのは、大半が20〜30代の現地の若者たち。「徹夜での作業もあるけど、この会社にいれば給料はまだまだ上がる」。自動車関連ソフトをつくっていた30代のシステムエンジニア(SE)は目を輝かせる。月給は1万元(約15万円)で、入社した2003年から3倍以上に増えた。
それでも、発注元の日本企業が負担する費用はSE1人あたり月30万〜40万円といい、日本で発注する場合の半分にも満たない。
「科学強国」を掲げ、世界のソフト供給基地をめざす中国政府の戦略のもとで大量のSEが育てられている。大連市内だけで大学が31校あり、毎年、IT専攻の学生が3万人近く卒業する。日本全体のIT系卒業生の人数を超える規模だ。
賃金はここ数年、毎年約10%ずつ上がり、数年で日本と変わらなくなるともいわれている。だが、NECソリューションズ中国の村上嘉昭常務は「大きな案件で短期間にSE300人を集めるなんて日本では考えられないが、ここではできる。賃金は今後上がるだろうが、中国の重要性は変わらない」。
日本の「空洞化」は進むばかりだ。
都内のあるオフィスビルは、空室が目立つ。入居していたソフト会社が今年初めに破産を申し立て、出て行った。帝国データバンクによると昨年の国内ソフト会社の倒産は221件で、過去最高になっている。
大阪市内のソフト会社に勤めるSE(30)は3月、派遣先の大手ソフト会社との契約が打ち切られた。
大学を卒業後、勤めていた住宅メーカーをやめて職業訓練校に通い、「経験を問わない」という求人をみてこの世界に入った。
5年前に働き始めたときから、「技術を磨き、より高い給料がもらえるようにならないと仕事がなくなる」と考えていた。だがそれが、あっという間に現実になった。
仕事がある人でも給与は下がり続けている。平均年収は07年度に431万円だったのが、11年度は407万円に減った。給与水準が中国に近づき、賃金がフラット(平準)化していく。
■自動車は韓国と一体化
自動車業界で働く人にも賃下げの圧力がかかる。
日産自動車の国内最大の工場、日産九州(福岡県苅田町)。到着したばかりの大型トレーラーから次々にマフラーなどの部品が運び込まれた。部品を入れた鉄製の枠には韓国から来たことを示す「KOREA(コリア)」の文字が記されていた。
「日韓ミルクラン」。乳業メーカーが酪農家を回って牛乳を集める「ミルクラン」のように、日韓両方のナンバーをつけたトレーラーが毎日1便(計10台)、韓国の釜山周辺にある24社の工場を回って部品を集める。通関を経て釜山港を出たフェリーが翌日、下関や博多に着き、その日のうちに陸路で工場に届く。
「積み替えの手間や在庫日数が大幅短縮できたし、安い韓国製部品が使える」と工場の幹部は言う。年内には日本からも、部品を同じグループのルノーサムスン自動車(釜山)に送り、九州で作っている同じ車種の生産も始める予定だ。
賃金の安いアジアとの連携が深まるのにあわせて、給与制度も事実上の「一体化」にむけて動き始めた。日産九州は日産本体から分離され、賃金体系も本体と異なるものになった。
「九州は、首都圏などに比べて物価が安い分、賃金も低くさせてもらうというのが基本的な考え方」と日産首脳は言う。
5年間は調整手当という名目で「賃下げ」分が穴埋めされる。だが、首都圏の工場で賃上げがあったときは、給与が変わらない日産九州は事実上の「賃下げ」になる。「新興国の生産性が上がり、賃金が割高になった日本で国内に雇用を残すなら、賃下げのようなやり方を活用するしかない」
この動きは、同様に別会社をつくって九州に進出したトヨタや、一次下請けの子会社にも広がる。首都圏などに比べて組み立てメーカーで1割、部品メーカーでは2割ほど賃金水準が低いという。
それでも地元では、韓国メーカーの存在感が少しずつ高まり、攻勢の影響が出始めている。
「このところたて続けにトヨタや日産から請け負ってきた仕事を韓国や中国企業にとられて」。北九州市内の工業団地で、部品会社の幹部は厳しい表情だ。
「どうして負けたのか」。納入先にかけあうと、韓国企業が請け負った代金の資料が送られてきた。機械での加工費はさほど差はなかったが、材料費や塗装費は10〜15%も低かった。
「やはり人件費の差なのか」。愕然(がくぜん)とした。
国を超えて活動する「超国家企業」の手足が広がるほど、日本で働く人の賃金が下へ下へと引っ張られていく構図ができつつある。
(千葉卓朗、西井泰之)
■もうけ、給与に回らず
働き手がグローバル化の影響をまともに受けている。正社員の給与は10年前より下がった。企業がもうけから給与に回す分を減らし続けているからだ。
人件費を削る方法として、正社員を賃金の安い非正規社員に置き換えるやり方が製造業を中心に広がった。だがそれも限界に近づき、会社を分割して子会社をつくり、本体とは別の賃金体系にして給与水準を下げるやり方も増えている。
グローバル化に伴って産業構造がフラット化しているのは事実なんでしょうけど、「そこで生き抜くために個々人のグローバル人材化が不可避だ」とは思いません。そんならそれで、別の生き方もあるはずです。
というか、それがなかったら私などは生きていけません。
まあとりあえず、「いっそ九州を東京から切り離していただく」というのも一案ですね。日産本社と日産九州、そしてルノーサムスンとの間の関係を見るまでもなく、九州と韓国は近く隣り合っていますし、そのすぐ先には山東省や遼寧省が控えています。そこで自前でどうにかやっていくというのも、あながちありえない話ではない、かもしれません。
ルノーサムスン・2014年から日産車を受託生産 - 東洋経済日報
Auto Prove - 【日産】ルノー日産の世界戦略。韓国ルノーサムスンとの関係を強化
そういう地図の見方は、一面ではトランスナショナルなものではありますが、一面では地政学的なものです。土地に縛られずに流動化しようとする流れとは少し違う、土着化の可能性を見出せはしないか。
…とまあ、そんなことを妄想したりしています。