昨日、このニュースを目にして気にしてはいたのですが、KARAを優先してしまいました。
これまでにここで取り上げてきたことを含め、あちこち思い当たる節々にぶつかる報告です。
大学の存在意義は就職にあり?
地方大学の人文学部・芸術学部が続々と廃止
2013年6月27日(木) 趙 章恩日本では少子化のために新入生が減って、地方大学は大変だ、という話を聞いたことがある。韓国も少子高齢化で同じような状況に陥っている。ソウルにある名門大学に入るための受験戦争はいまだにすごい。受験の日には国中が緊張する。遅刻しそうになった受験生を白バイが会場まで送ってあげたり、公務員の出勤時間を1時間遅らせて受験生が渋滞に巻き込まれないようにしたり、といったことが起きている。しかし、入学試験の成績が悪くても授業料さえ払えばすぐ入学できる地方大学も増えている。大学の数があまりにも多いため、定員割れが起きているからだ。
筆者は、ソウル市内の高校で教師をしている従姉から、大学のロゴ入り健康食品や靴下、ハンカチをよくもらう。地方大学の教授らが首都圏の高校を回り、3年生の担任らに頭を下げてお土産を置いて行くのだそうだ。「うちの大学も受験するよう、ご指導のほどよろしくお願いします」というわけである。以前は大学の教授がわざわざ高校まで来てくれたのだから、とちゃんと対応していた。だが、その数があまりにも多いので、最近は「あ、またか」と振り向きもしなくなったという。
入試説明会という名目で大学側が高校3年生の担任先生を観光地に招待し、接待することもある。学生がいないと教授も大学もいらなくなる。地方大学は新入生を勧誘するため必死になっている。
就職率の低い学科を廃止へ
こうした中、定員割れが続く大学に対して、政府がリストラを促し始めた。
大学の講義や教授の研究活動のレベル、学生の就職率を評価して、点数が低い大学には補助金を給付しないことにしたのだ。韓国の大学は、私立であってもすべて、政府から一定の運営補助を受けている。政府からの補助金がなくなり、学生も減ると、大学は経営難で廃校するしかなくなる。
大学側は政府による評価をなんとか高めようと、就職率が低い人文学部――国文学科(韓国文学)や哲学科――ほか、絵画科といった人文学部と芸術学部を廃止し始めた。大学が示す理由はこうだ。就職率が低い学科があると、大学全体の平均就職率が低くなる。そうなると大学全体の評価が低くなる。評価が低いと政府の補助金がもらえなくなり、大学のイメージも悪くなる、そうなれば新入生が来てくれない。大学の財政がさらに悪化する。だから就職率が低い学科を廃止するのは仕方ない。
6月末には、ソウル市にある名門大学も次々に、就職率が低い学科の廃止を発表し始めた。フランス文学科、ドイツ文学科、哲学科、比較民俗学科、福祉学科、物理学科などを廃止し、その分の新入生枠を就職率の高い経営学科に回すという。朴槿恵大統領が旗を振るICT(情報通信技術)政策をチャンスと見て、コンピュータ工学部を廃止してソフトウェア工学部や情報セキュリティ工学部を新設し、就職率を上げようとする大学もある。
廃止が決まった学科の学生と教授らは、「就職率が低い学科は学問としての価値がないのか」「大学は就職するためのスキルを教えるところではない」「政府は大学を評価する軸に、就職率を選ぶべきではない」と反発している。学生らは、大学側が学生や教授の意見を一切聞かず一方的に廃止を決めたことも悲しんでいた。
廃止が決まった地方大学の絵画学科の学生らは「ピカソが就職したことあるのか」「芸術を就職率で判断するな」と、大学の外で廃止撤回を求める集会を始めた。6月中旬にはソウル大学をはじめとする全国の大学の芸術学部の学生が集まり、芸術学部の価値を就職率で評価することに反対する集会をソウルにある政府庁舎の前で行った。一部の私立大学では学科廃止に反対する学生らが大学を相手に訴訟を起こす準備をしている。
国文学科を廃止する地方大学が増えていることも議論になっている。自分の国の言葉と文学を学問として研究することは民族の歴史を知ることだ。韓国語と韓国の文学を韓国人が研究しなくなったら誰が研究するのだろうか。歴史学者らは、韓国が(高麗時代、朝鮮時代に)モンゴルに支配されたり、中国の属国扱いされたりしても、今こうして独立した国として残っているのは自分の言葉があったおかげだと分析する。国語を研究することはとても大事なことであるはずだ。
30〜50歳代の韓国人の間で、人文学を改めて学ぶことが流行っている。投資ノウハウ本や自己啓発本ばかりが売れている韓国で、哲学や古典の本が売れ始めた。「真なる人間性の回復」を求める動きが出始めているのだ。大きな会社に就職して、競争を勝ち抜くことにきゅうきゅうとする生活に疲れを感じ、癒しを求めて哲学や古典を勉強する。今すぐ使える要領ではなく、長い時間をかけて積み上がってきた知恵を学ぶことで、人間らしい生き方や精神的な幸せを見つけたいと願うようになった。しかし本来人文学を教え、教養を身につけるはずの大学では、就職のことしか考えていない。
財閥が大学を買う時代
大学が就職率の低い学科を次々に廃止しているというニュースに世論が騒ぎだすと、政府は評価指標の修正を検討すると発表した。現在の評価法では、就職率が20%、定員充員率(定員割れしていないこと)が30%と、とても高い割合を占めている。政府はこれらの割合を低くする意向だ。
ただし、それだけで状況が変わるとは思えない。大学側の問題もある。大学は本来、講義のレベルを高くして学生を集め、定員割れしないようにするべきではないだろうか。就職率の低い学科を廃止し、就職率の高い学科だけを残すことで定員充員率を上げようとしていることに問題がある。
さらに、大学と企業との関係も問題だ。財閥グループが私立大学を買い取り、理事になるようになってから、大学が職業訓練学校に転落したように見える。財閥グループに買い取られた私立大学は、翌年には必ず大規模な学科統廃合を行い、財閥企業が必要とする学科だけを残す。学生も教授もみんなが満足する学科統廃合を行った事例はごくわずかしかない。
名門私立大学は「契約学科」を設立している。大学と財閥グループが契約して設置するもので、財閥企業が必要とする人材を育成する特別な学科だ。半導体システム工学科、モバイルソフトウエア工学科、未来エネルギー学科など、職業訓練学校のような専攻科がたくさん登場した。
契約学科に入学した学生は授業料が全額免除されるうえに奨学金(生活費)までもらえる。さらに財閥グループ会社に全員就職できる。全国の高校の成績上位0.1%の秀才が集まるまでになった。1998年の通貨危機以降15年以上も就職難が続く中、その学科を卒業するだけで財閥企業に就職できるのは、学生にとって大きな魅力だ。
純粋に学問を学ぶためというより、就職するために大学に入る学生の方が多い――それは否定できない。就職のために、専攻科目の勉強よりTOEIC満点を目指す。企業が主催する公募で賞を取ることに時間を充てる。就職のためOB訪問をたくさんできそうなサークルにしか入らない――というのも事実だ。しかし、だからといって大学が、就職率の低い人文学部や芸術学科を廃止し、経営学部や財閥グループと契約した工学部だけを残していいのだろうか。
大学の競争力は就職率にあるという考えは、結局のところ、韓国の知的レベルを落とすだけではないだろうか。世界の大学ランキングで日本の東京大学や京都大学が必ず上位にランクインするが、韓国の大学はみかけない。世界の大学を評価する様々な指標の中で、就職率を評価する指標はどこにもない。どの評価機関も教育・学習の質、研究水準を主に評価する。
一体、大学の存在意義は何なのだろうか。大学側も、政府も、目の前の就職率ではなく、長い目で見た大学の存在意義を考えてほしいものだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130626/250228/
この記事では実名を出してはいませんが、財閥の影響が強い大学と言えば、三星グループの成均館大学校と、斗山グループの中央大学校が有名ですね。中央大のドラスティックな改革についてはひところ話題になってきたと記憶しています。
まあ、600年を超える「伝統」を誇る成均館大学校から人文系の学科がなくなってしまったとしたら、それはもうホントに世も末でしょうねえ。まだそこまではいっていませんけど、今でも批判する人がいないわけではありません。
そう言えば、(学校法人ではない)企業グループによる大学の買収といった話は、日本ではあまり聞いたことがありません。中学高校だといくつか頭に浮かびますけど、あるのかな?
豊田工業大学は、韓国で言うとPOSTECHのようなものですから、ここで言われているのとはちょっと違いますし。