『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国文学の翻訳がまとまって進んでいる昨今の中でも、この作品は特に気になっています。

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

韓国書籍 30代の女性たちの人生の報告書 「82年生まれキム・ジヨン」 ★★Kstargate限定★★

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とはいえ、まずは読まないとね。

(インタビュー)100万部、韓国女性の苦悩 韓国の作家・趙南柱さん
2018年12月14日05時00分

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「私が挫折し悩みながら話せなかったことを、夫は本を読んで分かってくれたようです」=ソウル、崔スンド氏撮影

 韓国で1冊の小説が爆発的に売れている。「82年生まれ、キム・ジヨン」。様々な差別に苦しみつつ必死に生きる女性、その苦悩が映す社会の姿を描き、100万部を超えるベストセラーになった。女性たちが自分らしく生きられるように「声を上げよう」という著者の趙南柱(チョナムジュ)さん。韓国を訪ね、小説に込めた思いを聞いた。

 ――小説の主人公、キム・ジヨンは33歳の主婦です。3歳年上でIT関連企業に勤める夫と3年前に結婚し、1歳の娘がいます。幼い頃から経験してきた出来事を描き、韓国社会の日常にある女性差別を告発していますね。

 「1982年前後に生まれた女性で一番多い名前が、ジヨンだそうです。子どものころ、ご飯が炊きあがると父、弟、祖母の順に配られ、姉妹は後回し、学校でも給食は男子が先が当たり前。姉は母の勧めで、長期休暇があって子育てがしやすいから、と教職を目指し、教育大学に進みました。ジヨンは人文学部で学びましたが、就職試験は書類選考で次々に落とされました。何とか入った広告会社では大事な仕事は男性に任され、給料も男性優位。子育てのためには、会社を辞めざるをえませんでした。そんなストーリーです」

 ――小説ではジヨンの母の世代の生き方にも触れています。

 「地方の農家に生まれたジヨンの母は、小学校を終えると14歳でソウルに出て、姉が働く紡績工場で仕事に明け暮れました。急速に経済が発展し産業化が進む中、農業は衰退し、子どもたちはソウルで働くしかなかった。過酷な勤務で稼いだお金は兄弟の学費に使われました。娘たちは男兄弟を支えるのが当たり前だったのです」

 ――小説に登場する女性はすべてフルネームで出てきますが、男性はジヨンの夫だけで、父も弟も名前がありません。なぜですか。

 「韓国の女性は、常に周縁の存在でした。結婚前は『誰々の娘』であり、結婚すると『誰々の妻』になる。子どもが生まれれば『○○ちゃんのお母さん』です。逆に男性の名前をすべて消してしまうとどうなるのか。その不自然さがはっきり見えると思ったのです」

 ――ジヨンの母が「娘を産んで申し訳ない」と義母に涙ながらに謝る場面には驚きました。儒教の影響もあり、家父長的な社会を象徴する出来事だと思いますが。

 「男の子を望む傾向は根強く、ジヨンが生まれた頃は、おなかの子が女の子だと分かると中絶するケースが珍しくありませんでした。その結果、男女比が著しく不均等になりました」

 ――それでも、ジヨンと同じ世代の女性たちは、男子と対等に高等教育を受けることが普通になりました。女性の地位は高まったのではないでしょうか。

 「そんなに簡単ではありませんよ。女性が社会に出ようとすると大きな壁にぶつかります。ジヨンの母には機会そのものが認められず、社会構造に問題があることが明確でした。しかし機会が与えられた若い世代は、挫折を自らの能力のせいだと考え、戸惑います。自尊心が傷つき、ときに精神を病んでしまうのです」

 ――大きな壁とは。

 「『経断女(キョンダンニョ)』という象徴的な言葉があります。『経歴断絶女』という意味です。キャリアウーマンとしてどんなに活躍していても、結婚して出産すると、子育ての問題にぶつかります」

 「実は、私自身も『経断女』です。大学4年で始めたフリーランス放送作家の仕事はやりがいがあり、出産の1週間前まで働きました。母に娘をみてもらおうと思いましたが、姉の子たちで手いっぱいでした。そのうち1年、2年が過ぎ、社会と関わらなくなりました。実に歯がゆく、娘が寝静まると小説を書き始めたのです」

    ■    ■

 ――韓国の昨年の出生率は過去最低の1・05。今年はさらに下がりそうです。日本(1・43)を下回り、世界でも最低水準です。

 「少子化は、女性が社会活動と育児を両立できないのが大きな原因です。長時間労働が当たり前で、夫が帰るのは深夜。休日出勤もあります。ソウルのような大都市では保育園が足りず、親が子育てを助けてくれる家庭ばかりではありません。結局、女性が育児に専念するしかないのです」

 ――小説には、ジヨンが娘を連れて公園でコーヒーを飲んでいると、会社員の男たちが「ママ虫(チュン)もいいご身分だ」とからかう場面が出てきます。

 「ママ虫という言葉は、数年前からネットで広まりました。一人で子育てをしているのに、『夫に働かせて自分は優雅に遊んでいる』と非難するものです。かつて母親は、何か神聖視される存在だったのですが」

 ――そんな現状を変えようと、女性たちの動きも活発です。

 「韓国では2015年が女性運動の転換点と言われます。当時、MERS(中東呼吸器症候群)が流行したのですが、病気にかかった女性たちが隔離を拒否したせいだ、といううわさがネットで広まりました。何の根拠もありません。怒った女性たちが、偏見や誤解を正そうと声を上げました」

 「女性に対して暴力的な言葉を使った芸能人がテレビ番組から降板させられたり、女性を卑下するような雑誌の表紙が消えたりするようになりました。フェミニストフェミニズムという言葉も堂々と語られるようになり、私も触発されました」

 ――女性嫌悪とでも言うべき現象は、従来の家父長的な差別と違いますね。

 「韓国では大学を出た男性も、就職するのが大変です。非正規労働者が4割とも言われ、社会は不安定です。一方で有能な女性が、たくさん出てきました。女性にポストを奪われる、という男性の被害者意識が、女性嫌悪に向かわせるのでしょう。10年くらい前からネットでは暴力的な書き込みが見られるようになりました」

    ■    ■

 ――小説は一昨年10月に発売され、先月末に100万部を突破しました。韓国も本が売れない中、久しぶりの快挙です。映画化も決まりました。読者の約8割は女性で、20代から40代が圧倒的だそうですね。反応はいかがですか。

 「女性がよくみるインターネットのサイトの書き込みを通じて評判が広まりました。ジヨンの体験が、まるで自分のことのようだ、という女性の声がたくさん寄せられています。拒否感をあらわにする男性の書き込みも多いですが、熱心な読者もいますね。ある男性の国会議員は同僚みんなに本をプレゼントしました。別の議員は文在寅(ムンジェイン)大統領に渡して話題になりました。講演会で、『自分に何ができるだろうか』と質問する若い男性にも勇気づけられます。さすがにおじいさんは、あまり見かけませんが」

 ――ご自身も、小学校3年生の娘さんがいらっしゃいますね。将来、どんな社会を望みますか。

 「92年生まれ、02年生まれの○○といった小説を書いたらどうなるか、そんなことも考えます。読者イベントでは、手塩にかけて育てた娘が、絶望するような社会にしてはいけないと心配する父親にも会いました。性別や人種などの属性ではなく、自らのアイデンティティーをきちんと持った個人として機会が与えられ、発言できる社会になって欲しいと思います」

 ――何が必要でしょうか。

 「女性に対する家庭や学校、職場での差別や性暴力の問題が、公の場でもっと語られるべきだと思います。これまでは女性たちが声を潜めておしゃべりをしていたのですから。みんなそんな体験をしてきた、といって過ぎてしまうのではなく、社会全体で語り合い、解決してゆくべき問題です」

    ■    ■

 ――小説は台湾やタイでも翻訳されました。さらに英仏やイタリア、ベトナムインドネシアなど十数カ国でも出版の話が進んでいるそうですね。

 「ジヨンの経験が、韓国特有のものではないということです。だからこそ、多くの国の人たちが関心を持ってくれるのでしょう」

 ――日本でも女性差別は、大きな問題です。医大で受験生の点数を調整して女子の合格者を抑制したことが発覚しました。

 「東京医大ですね。他の医大にも問題が広がったそうです。関心を持ってニュースを見ていましたが、社会にはびこる不正の全体像が明らかになるといいですね。韓国でも高校、大学入試や就職試験で不正に女子を不合格にしたことがありました」

 ――日本語版(筑摩書房)も今月発売されました。日本の読者には何を伝えたいですか。

 「日本も女性をめぐる状況は厳しいようで、(性暴力を告発したジャーナリストの)伊藤詩織さんが韓国に来て訴えていました。私の小説を読んで、あらすじがどうのこうのとか、テーマがどうだとかを語り合うだけではなく、私もこんな経験がある、と語り合えるようになればいいと思います。そうした体験は、周りのだれかのせいではなく、社会の構造に問題があるのです。勇気を出して、声を上げてほしいと思います」(聞き手・桜井泉)

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 チョナムジュ 1978年ソウル生まれ。社会・教養番組の放送作家をへて、2011年に長編小説「耳をすませば」(邦訳なし)でデビューした。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13810806.html

こういうのも含め、世の中考えるのに参考になるところは多そうです。