OSシネマズミント神戸で映画「野球少女」を観る。

「野球少女」、待望の日本公開を受けて、観てきました。

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いま見返して思った。日本版の予告編、センスないなあ…。地味に作ったら受けへんと思ったのかもしれんけど、誰やこれ作ったん。

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それはともかく、本編は予想通りに、いや予想以上に、いい作品でした。もちろん、イジュヨンをはじめとした出演陣の演技も光るんですけど、これはおそらくチェユンテ監督のシナリオが抜群にいいんですよ。主人公の心情を掘り下げていく中で、そこに関わり、目にする人は問われていく。

「あなたは今そこで、何を言い、何をするのか。」

自分が主人公の立場だったら、父親だったら、母親だったら、監督だったら、コーチだったら、友だちだったら、チームメイトだったら、同じトライアウトを受けていたら…。

この、「胸に迫る思い」というのを、今度は自分自身で掘り下げてみる。そういう見方が求められる作品だったなと思います。

ちなみに、この作品の日本版パンフレットはいいですよ。監督へのインタビューや解説記事の執筆陣の人選もいいですし、コンパクトで読みやすい装丁になっています。

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「女性だから苦しんでいるという描き方は安易だと思った」“見えない壁”に立ち向かう「野球少女」監督が語る
2021年3月3日 12:00

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「梨泰院クラス」でブレイクしたイ・ジュヨン主演作 (C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

Netflixの韓国ドラマ「梨泰院クラス」でブレイクしたイ・ジュヨンが主演する映画「野球少女」が、3月5日に日本公開を迎える。韓国では、第24回釜山国際映画祭での上映を経て、2020年6月に公開。コロナ禍にもかかわらず、多くの人々が劇場に駆けつけ、SNSへ“熱い感想”を投じていた。

主人公は、最高球速134キロの速球とボールの回転力が強みの天才野球少女チュ・スイン(イ・ジュヨン)。高校卒業後はプロ球団で野球を続けることを夢見て、誰よりも練習を重ねてきた。しかし、女子という理由でトライアウト(プロテスト)も受けられない。おまけに友人、家族からも反対される。そんな時、プロを目指し夢破れた新任コーチのチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)が赴任し、彼女の人生に大きな変化が訪れる。

プロ野球選手になる夢を叶えるため「見えない壁」に立ち向かう――スインには、モデルとなった人物がいる。97年、韓国で女性として初めて高校の野球部に所属し、韓国プロ野球KBO)が主催する公式試合で先発登板を果たしたアン・ヒャンミ選手だ。イ・ジュヨンは、“開拓者”となったヒャンミ選手の努力、葛藤に迫るべく、約40日間の訓練に臨み、劇中全ての野球のシーンを自ら演じてみせた。

監督を務めたのは、16年に韓国映画芸術アカデミーを卒業したチェ・ユンテ。長編映画デビューとなった本作に、どのような思いを込め、完成へと導いたのか。リモートインタビューに応じたチェ・ユンテ監督に話を聞いた。

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チェ・ユンテ監督 (C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

――企画のきっかけは“奥様の体験”とお聞きしています。それは「リトルリーグのチームに所属する女子生徒のインタビューを見て、不愉快な気持ちになった。会話の中では彼女のことを『天才野球少女』と持ち上げておきながら、『女子が野球をするのか?』という視点が露骨に現れていたから」というもの。その後、2017年のNBAドラフトの視聴を経て、シナリオ執筆に着手されています。初稿では「女性の人権に焦点を当てた物語」だったそうですが、より普遍的なテーマへと広げていったそうですね。物語は、どのような部分が変化していったのでしょうか?

シナリオを書き進めながら、チュ・スインは“女性だから苦しんでいる”という描き方は安易だと思うようになりました。単に“女性だから苦しんでいる”という描き方をすると、頑張っているチュ・スインの気持ちに、誰も共感できないと気づいたのです。大勢の観客がチュ・スインの気持ちを理解し、共感するためには、女性だからという描き方ではなく、チュ・スインを自分の限界と闘う人物にしなければいけないと思いました

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(C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

――シナリオのリサーチのため、多くの人々にインタビューを行ったそうですね。そのなかで判明したのは「現実にも大勢のチュ・スインが存在する」ということ。どのようなエピソードを聞きましたか?

女子野球の国家代表チームの選手にインタビューをしたのですが、皆さん「野球をするのは幸せだ」と口々に言っていました。それ以前にインタビューをした男性選手の皆さんは「野球はとても大変で、いつも自分の限界を感じる。だから、グラウンドに行くのが辛い」と言っていました。つまり、女子野球の選手の話と真逆だったのです。インタビューをしていた当時、その違いが私にはとても大きな衝撃となって胸に迫り、女子野球選手が持っているエネルギーが、とても新鮮でポジティブに感じることができたんです。

――イ・ジュヨンさんとのタッグはいかがでしたか? どのような役者だと感じましたか?

強い信念と自分自身への確信を持っている役者だと思います。カメラの前でどんなふうに動いたら、どんなイメージで映るのかを一番よく知っている役者でもあります。私たちには予算がなかったので、1日に撮影しなければならない分量が膨大でした。そのため、エピソードと呼べるようなものがありません。撮影した記憶しかないからです。普通は撮影現場で合間に私的な話をするものですが、私たちは時間がなさすぎて、私的な話も全くできませんでした。ひたすら撮影をしていた記憶だけです。

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(C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

でも、撮影が終わった後のエピソードはありますね。「野球少女」は釜山国際映画祭で初めて上映されましたが、映画祭が始まるまでは、“本当に映画祭に行けるかどうか”について、イ・ジュヨンさんと何度も話しました。釜山国際映画祭に出品はしましたが、必ず上映されるとは限らないからです。イ・ジュヨンさんは「映画祭でぜひ上映してほしい。私たちも映画祭に行きたい」と言いましたが、私は「それは、私の力で決められるものではない」と言ったのを覚えています。

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(C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

――韓国公開時にはどのような反響がありましたか?

作品を応援してくれる観客もいましたが、かなり否定的だった観客も20%くらいはいました。一番嬉しかったのは「チュ・スインが現実に存在したらいいのに」という意見。一番、印象に残っています。演出者として最も嬉しい一言でした。

――今後の展望についてお聞かせください。

現在は、次回作を準備中です。「ミッドナイト・ランナー」(キム・ジュファン監督)、「ユ・ヨルの音楽アルバム」(チョン・ジウ監督)などを手掛けた製作会社とタッグを組んで撮る予定になっています。

https://eiga.com/news/20210303/14/

韓国映画「野球少女」が浮き彫りにした、男女の分断
藤えりか 2021年3月4日 11時00分
シネマニア経済リポート

 人気ドラマシリーズ「梨泰院クラス」にハマった人には必見と言える映画が5日、公開される。韓国映画「野球少女」は、女子の高校野球選手が、偏見などあまたの壁にも負けずプロ選手をめざす物語。夢の仕事をあきらめないという、一見誰もが共感するはずの話だが、本国では賛否も巻き起こったという。チェ・ユンテ監督(38)にネット会議システムでインタビューすると、ジェンダー平等をめぐる議論の難しさが改めて浮かび上がってきた。

 「野球少女」は、韓国で「天才野球少女」として名をはせた高校生チュ・スイン(イ・ジュヨン、29)が主人公。女性投手として球速134キロを誇り、高校野球界で一躍、時の人となったが、いざプロ入りをめざすと、入団テストすら受けさせてもらえない壁にぶち当たる。母親や周囲は「現実的な仕事」につけさせようとし、衝突する。

 イ・ジュヨンは、日本でもネットフリックスで話題となったドラマシリーズ「梨泰院クラス」で、トランスジェンダーの料理長役で人気を博した若手俳優。今作では他に、「梨泰院クラス」で重要な役を演じた別の俳優も、まさかの役どころで出演している。

 女性登用は、職業としてのプロスポーツの世界では、とりわけ強固な壁が立ちはだかりがちだ。そもそもプロの道は誰にとっても簡単でないうえ、「体力」という名の下に、また「女性を入れると勝てない」という一見もっともらしい言説の下に、性差は「仕方のない差」とされる。でも、スポーツは体力だけが勝負どころなのか? プロは女性だと本当に通用しないのか? イ・ジュヨンの役は、そうした疑問を身をもって投げかける。彼女自身、撮影前の猛特訓で、野球の全場面を吹き替えなしで演じたという。

 今作でチェ監督は脚本も書いた。きっかけは、韓国のリトルリーグで活躍する少女のインタビューを見た妻が覚えた不快感だった。「天才野球少女」と持ち上げながら、「なぜ女子が野球をするのか?」という違和感が露骨に表れていたという。「偏見以外の何物でもない」と監督も感じたそうだ。

 「これは男性の何々とか、これは女性の何々とか、本当だったら性別をつける必要はない。大切なのは個人。でも、こういう現実があるわけですよね

 韓国でコロナ禍まっただ中の昨年6月に公開されると、「応援する人たちがいた一方で、『どうしてこの映画を公開するのか』と言う人もいて、両極端な意見が出た」とチェ監督は言う。「彼らは今作について、『困難なのは女性だからだ』と主張する映画ではないかと思ったようです。韓国では、男女間の分断や葛藤が激しいですから」

 「女性の困難」を主張してなぜ賛否が起きるのか。ここに、韓国でいわば先行する男女の分断の深刻さがある。「先行」というのは、日本でも近年、ネット上で似たような書き込みが目立つためだ。

 儒教文化が色濃い韓国は、日本同様、男尊女卑の考えが根強い。そんな中、その実態を赤裸々につづった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」がベストセラーとなり、各界で女性差別の告発が相次いだ。だが同時に、「女性は兵役の義務もないのに不満を言うな。男性こそ差別されている」という反論も、兵役世代の若い男性を中心に高まったという。

 だからこそチェ監督は今作の撮影で、ジェンダーだけを強調しないよう工夫したという。「悩みながら、女性または男性どちらかの肩を持つようにならないよう演出しました。映画で、『女子かどうかは関係ない。お前は実力がない』というセリフが出てくるのはそのためです」

 そのように気遣わざるを得ない現実に、暗然たる気持ちになるが、それほどまでにジェンダーは議論が難しいということだろう。

 とはいえ、チェ監督いわく、「それでも以前に比べると、(分断的な)意見は減った気がします」。であれば、これからはもう少し和らいでいくのだろうか。

 チェ監督は言う。「考えてみれば、男女の分断や葛藤があること自体、本当に不自然なことですよね。私の一番愛する妻は女性で、妻が一番愛する私は男性なのですから」

 主演のイ・ジュヨンについては、「とにかくこの映画を応援してくれていました。そして、この映画が語っていることは意味があることだと信じてくれました」。

 実際、今作には、「夢の仕事をあきらめない」という普遍的なメッセージがある。コーチ役の男性が、「短所はカバーできない。カバーするには長所を伸ばさないと」と、主役の選手を後押しするセリフも印象深い。

 チェ監督は言う。「これは私が普段から持っている考えなんです。私自身、もちろん短所がありますが、短所とは思っていません。私にとっては自然と出てきたセリフですね」(藤えりか)

https://digital.asahi.com/articles/ASP333F7QP2XULFA003.html

なぜ無理だとわかるのか? チェ・ユンテ監督が映画「野球少女」を撮った理由
2021.3.6 17:00AERA

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CHOI Yun-tae/1982年生まれ。2016年、韓国映画アカデミー卒業。本作が長編映画デビュー作となる。短編映画での監督作品に、「Scooter」(07年)、「Rough,Hard and Sad」(09年)、「Test Flight」(12年)、「Knocking on the Door of Your Heart」(16年)がある (c)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

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「野球少女」/大ヒットドラマ「梨泰院クラス」でブレークしたイ・ジュヨン主演作。3月5日公開予定 (c)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。

*  *  *
 いくら実力があっても、女性というだけで門戸を閉ざされてしまう職業がある。ましてや、誰もがそれを当たり前のように思っている“男性のスポーツ”、プロ野球だったら、多くの人が受け入れてしまうのではないか。

「野球少女」は、“天才野球少女”と称される、野球が大好きな女子高校生チュ・スイン(イ・ジュヨン)が主人公だ。子どもの頃からすべてを野球に捧げてきた彼女が、プロ野球選手になる夢をかなえるため、周囲に反対されながらも突き進む姿を描いた。

 本作が長編映画デビューとなるチェ・ユンテ監督は、妻から聞いた話に着想を得たという。

「妻はインターネットで、野球をしている少女がインタビューを受けるところを見たと話してくれました。でも、『いくらこの少女が頑張ってもプロには行けないのに』と残念がっていたんです。それで私が『いやいや、女性でも行けるよ』と話したら、新しい事実を知ったかのように驚いていました。その反応を見て、こういう話を映画にしたら意味があるのではないかとシナリオを書き始めたんです」

 韓国も男女間格差は根深く、2019年公表のジェンダーギャップ指数は108位だ。

「企画の段階から苦労しました。そもそも女性が主人公になる商業映画は価値がない、と言われてしまったんです」

 そこで、商業映画がダメなら公的機関と、監督自身が通っていた韓国映画アカデミーに制作を依頼した。ところが、そこでも「この予算では無理」と断られてしまった。

「『商業映画でも撮れず、インディーズでも撮れないなら、一体どこで撮ればいいんですか!』と怒ったことを思い出します。ただ、以前そこで短編映画を制作した時も予算で一度は断られたものの、結局撮った経験があったので、あきらめずに説得し、いろいろなことが重なってなんとか今回も撮ることができました」

「なぜ無理だとわかるんですか? 私がプロになれるかなれないか、なぜ無理だと?」。スインの質問に答えられる大人はいない。なぜ無理なのか。スインの言葉は、当たり前のように性差別を受け入れている自分自身にも跳ね返ってくる。

 切実なスインのせりふは、どのように生まれたのか。妻や女性たちへの取材からだったのか。そう監督に問うと、「女性の気持ちを書こうと思っていたわけではない」と、思いがけない言葉が返ってきた

実は、私自身の気持ちをスインに語ってもらうように書きました。私自身、少し言語障害があり、学力も高くはありません。監督になる前は、いつも撮影現場で『君は監督にはなれない』と言われてきました。そんな体験もスインのキャラクターを創作する上で助けになったと思います

 韓国で多くの人の心に響いたのは、単に「男女差別」だけにとどまらない、普遍的な「差別」の意味を問うているからなのだろう。

◎「野球少女」
大ヒットドラマ「梨泰院クラス」でブレークしたイ・ジュヨン主演作。3月5日公開予定

AERA 2021年3月8日号

https://dot.asahi.com/aera/2021030200044.html (一部省略)