新旧の阿蘇大橋の狭間で

熊本地震のあと、2018年に阿蘇を訪れた時には、豊肥線阿蘇大橋の周辺もとても復旧をイメージできる状態ではなかったのですが、豊肥線が開通し、こうして新阿蘇大橋が開通し、主要交通網としてはあと南阿蘇鉄道を残すのみになりつつあります。様々な変化を飲み込みつつ、歳月は確実に過ぎています。

また機会を見つけて、訪れることはあると思います。

「息子の遺品探し続ける」故大和晃さんの両親 新阿蘇大橋に複雑な心境も
2021/3/6 19:50 (JST)3/7 09:40 (JST)updated
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大和晃さんが犠牲となった旧阿蘇大橋近くで花やたばこを供える父卓也さん=3日、南阿蘇村河陽

 2016年4月の熊本地震で崩落し、約600メートル下流で再建していた国道325号新阿蘇大橋(南阿蘇村)が7日、開通する。地元では観光客増や交通の利便性向上に期待が高まる。一方、崩落現場付近の土砂崩れで車ごと流されて犠牲になった大和晃[ひかる]さん=当時(22)=の父卓也さん(62)は、復興の進展を歓迎しつつも、「まだ車体の半分が現場に残っている。もろ手を挙げて開通を喜べない」と複雑な心境をのぞかせる。

 3日、卓也さんは崩落現場近くにある、アスファルト片を積んだ祭壇を訪問。花とジュースを供え、晃さんが好んだ銘柄のたばこに火を付けた。「妻からは、『あなたが吸っていたから晃が吸い始めたのよ』と怒られていた」と頭をかきながら懐かしむ。

 地震から5年がたとうとしている今でも、晃さんの遺品を探し続けている。1、2週間に1度は祭壇に行き、雑草が茂ると刈り払い機できれいにする。真下を流れる黒川が見えなくなるからだ。「体は戻って来たが、車には持ち物が残っているかもしれない。それは晃の一部。これからも川を見つめ続ける」

 卓也さんと妻忍さん(53)は、他の犠牲者の遺族や元の住居に戻れていない被災者の存在に触れ、「(復興から)取り残されていると感じる人は多いと思う」とおもんぱかる。祝賀ムードが広がる中、卓也さんは「まだ新しい橋を渡る気になれない」。忍さんは今も、昨年10月に復旧した国道57号の崩落現場を通ることができない。

 心の支えとなっているのは、当時の県災害対策本部による捜索が一時中断した後、家族と一緒に手掛かりを探してくれたボランティアや、苦しい思いを共有してくれた報道関係者だ。

 自らの結婚や出産といった人生の節目を報告に訪れたり、卓也さんの還暦祝いを一緒に開いたりしてくれた。忍さんは「支援してくれる人がたくさんいたから、この5年を生きられた。私たちが寂しくないように、晃がいろいろな縁をつないでくれたのかな」。晃さんの遺影を見て、ほおを少し緩めた。(東誉晃)

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阿蘇大橋、揺れ逃がす工夫 構造も強く最善の技術
2021/3/8 11:00 (JST)
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阿蘇大橋の建設で工期短縮のために用いられた超大型移動作業車(熊本復興事務所提供)

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阿蘇大橋の建設で工期短縮のために用いられたオートクライミングシステム工法(熊本復興事務所提供)

 熊本県阿蘇村に7日開通した新阿蘇大橋は、熊本地震で崩落した旧大橋から約600メートル下流の渓谷に架かり、村の中心部方面と立野側の国道57号をほぼ直線でつなぐ。全長525メートルは旧大橋(206メートル)の約2・5倍。地震の教訓を生かして揺れに強く、揺れを逃すための工夫が施されており、国土交通省は「熊本地震級でも壊滅的なダメージは避けられる」と強調する。

 新大橋は、黒川から約100メートルの高さにある長さ345メートルの本体部と、国道57号からの180メートルのアプローチ部の大きく二つに分かれる。

 本体部は、複数の橋脚と上部の橋桁を一体化させた造りで、ドイツ語の「骨組み」に由来して「ラーメン橋」構造と呼ばれる。両岸の2点で支えるアーチ構造に橋桁を載せた旧大橋に比べ、揺れに強いのが特徴だ。

 実際、新大橋のやや下流にある同じラーメン橋の阿蘇長陽大橋(276メートル)は、熊本地震でも本体部が崩れず残った。そのため地震後1年4カ月という早い段階で応急復旧が完了し、阿蘇地域復興の大きな支えとなった。

 新大橋はアプローチ部にも工夫がある。

 直下に活断層があると推定されるため、橋桁を65メートルと115メートルの二つの部分に分けた。活断層直上の65メートルの橋桁は、橋脚との接合部の強度をあえて弱め、強い地震が起きれば橋桁がずれて、揺れの力を逃がす仕組みだ。

 T字形をした橋脚の上部構造も、通常より幅を広げて橋桁が落ちにくくした。仮に橋桁が落ちた場合も、65メートルのアプローチ部だけに被害がとどまるため、新大橋全体では早期の復旧が可能という。

 建設においても、作業用の足場とコンクリートの型枠が一体化した状態で橋脚を造る「オートクライミングシステム」や、「超大型移動作業車」を使って橋桁を伸ばすように造るなど最新の工法を採用。国交省熊本復興事務所の藤川真一・工務第二課長は「こうした工法がなければ、開通は来年の夏前まで1年4カ月ほど伸びた可能性がある」と話す。

 地盤防災学の専門家として新大橋の工事に助言した北園芳人・熊本大名誉教授は「現在考え得る最善の技術を取り入れた。新大橋の開通が阿蘇地域の経済的な復興につながってほしい」と期待する。(太路秀紀)

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