「福井新聞」の連載「ふくいを生きる 第2景・お墓とお寺」
福井はこないだ訪れたところです。この連載、事例は福井のものを取り上げながら、福井に限られない日本社会の問題を扱ってコンパクトにまとめてくれています。
この連載シリーズはまだ続いているのですが、お墓関連でひとまとまりになっている4回分をまとめてクリップ。
家族離れ離れ命のつながり希薄に 第2景・お墓とお寺(1)
(2017年5月11日午前9時30分)
墓じまいの際に放置されたとみられる墓石=3月、福井市の足羽山公園西墓地たくさんの墓が並ぶ通路の脇には、細長い石が無造作に積まれ、覆い隠すように草が生えていた。石には家紋のようなものが彫ってある。約1万5900基を抱える福井市の足羽山公園西墓地。管理する市公園課は「墓じまいをした際の墓石が、放置されているのだろう」と話す。
墓じまいの主な理由は、子どもが住む別の場所に墓を作るためだ。市が管理する西墓地と東山墓地公園の墓じまいの数は2012年度は計21件だったが15年度は35件。厚生労働省によると、08年度の墓の移転件数は7万2483件だったが、15年度は9万1567件と26・3%増えた。
若者を中心とした地方から都市部への人口流出が止まらない。福井県への転入と転出の差を示す社会減の累計(1975~2014年)は5万3381人。人の移動とともに、先祖代々の墓が全国でさまよっている。
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「長年放置された無縁墓も増えつつある」と話すのは県石材業協同組合の水間久一理事長(59)。土台が崩れたり、草で覆われたりした墓は西墓地でも見られる。
興味深いデータがある。熊本県人吉市は13年、同市の1万5128基を調査したところ、数年お参りされていない“無縁墓”は、4割以上に当たる6474基に上った。第一生命保険の調査では、自分の墓は「いつか」「近いうちに」無縁墓になると答えた人は54・4%に上った。
ライフスタイルの変化や少子化に伴い、県内でも1人暮らしの高齢者が増え続けている。福井市のある住職は「家族離れ離れという形が当たり前になり、『○○家の墓』という仕組みが限界を迎えている」。別の住職は「個人、もしくは血縁によらない合同墓が主流になっていくだろう」と見通す。単身高齢者が、生前に合同墓を予約するケースもある。
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人には親がいる。その親にも親がいる。10代さかのぼれば、その数は2千人を超える。福井市門前町の妙國寺の奥野文長住職(52)は「自分が沸いて出たような感覚になり、命のつながりを感じていない人が増えていないか」と話す。
越前市出身の70代夫婦は都内で2人暮らし。娘2人は結婚し姓が変わった。妻は「いまさら福井の墓に入るつもりはない。私たち夫婦は東京の合同墓に入る」と言う。
娘たちも都内に住んでいるが、仕事や子育てに忙しく、会うのはせいぜい年に数回。「お墓の話をしたことはないが、私たちの姓が入ったお墓の面倒をずっとみてくれるとは思えない。(子どもに)遠慮しちゃっているのかな」。
20代で上京し、高度経済成長期を必死に駆け抜けてきた人生を振り返りながら「やっとひと息つけると思ったら、家族はバラバラになっていた。それも仕方ないか」と力なく笑う。
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荒れた墓、簡素化された葬儀、減り続けている寺などを通して、社会の課題を探っていきます。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/fukuiwoikiru/120825.html
無縁社会象徴、遺骨引き取り手なく 第2景・お墓とお寺(2)
(2017年5月12日午前7時00分)
引き取り手がいない遺骨を預かっている岡崎住職。「行き場をなくした骨は今後も増えるだろう」と話す=3月、福井県越前町の祐善寺本尊の阿弥陀如来をまつった須弥壇(しゅみだん)の後ろにある小さな戸棚には16個の骨壺が並ぶ。引き取り手がない骨だ。
福井県越前町上糸生の祐善寺の岡崎賢住職(68)は、社会福祉士として2003年から、認知症の高齢者らの後見人をしている。被後見人は金銭トラブルなどで家族と疎遠になった人が多い。
「被後見人が亡くなり親族に連絡しても『財産は相続するが、骨はいらない』と言われるケースがある」。通夜葬儀の参列者がなく、住職自らが火葬場で点火ボタンを押し、骨を拾うこともある。
現在、19人の後見人をする岡崎住職は「行き場をなくした骨は今後も増え続けるだろう」。今年中には境内に、こうした骨を納める墓をつくろうと考えている。
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福井市篠尾町の浄福寺が2004年に整備した霊園「酒生浄苑」の中央には、高さ約7メートルの「永代法要墓」がそびえる。墓を守る家族がいない場合などに、他の人たちと一緒に入る「合同墓」だ。
この墓は、引き取り手がなくなった町内の無縁仏を供養する目的でつくった。しかし数年前から、インターネットなどを見て「お金が無くて墓を建てられない。何とかしてほしい」といった相談が、県内外から来るようになった。
酒生仁弥住職(54)は、直接会って事情を聴いた上で、遺骨を預かるようになった。現在は、県外の4体を含む10体の遺骨を本堂地下の納骨堂に納めている。酒生住職は「さまざまな事情を抱えてここに来るが、みんな弔いたい気持ちを持っている」。10年後をめどに、あらためて親族に確認した上で合同墓に納めるという。
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「父の骨など見たくもない」と、遺骨の引き取りを拒否した女性が数年後、岡崎住職を訪ねてきた。「あの時はそれしかできなかった」。涙を流して後悔を語り、本堂で手を合わせて帰った。以来、お盆には寺を訪れるようになった。毎年お布施を添えた手紙を送ってくる親族もいる。岡崎住職は「親を許せないという思いを経て今、親子の命のつながりを感じているのかもしれない」と話す。
遺骨の取り扱いに困り、電車の網棚に骨壺を置き去るケースは全国的に多い。15年には、都内のスーパーのトイレに、遺骨を捨てる事件が起きた。一方、ネット上では全国の寺で遺骨を郵送で受け付けるサービスが始まっている。申し込めば、送骨梱包キットが送られてくる。岡崎住職は「遺骨がモノのように扱われている。無縁社会の象徴」と警鐘を鳴らす。
死後について、制度面での改善を求めるのは第一生命経済研究所主席研究員の小谷みどりさん(48)。「日本の福祉政策では、医師が死亡診断書を書いた時点で、亡くなった人は『人』でなくなる」と指摘。住み慣れた地域で最期まで暮らせるように支援する地域包括ケアシステムの中に、墓まで組み込むことで「みんなが安心して死ねる社会が実現する」と話す。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/fukuiwoikiru/120862.html
多様、簡素化が進む別れの儀式 第2景・お墓とお寺(3)
(2017年5月13日午前7時00分)
直葬では、遺体は亡くなった病院から葬儀場の安置所にいったん移され、火葬場へ運ばれる。葬儀場に設けられた祭壇は遺影もない=福井市内の葬儀場「がんになった妻は『葬式にお金を使うなら、子どもに残して』と言っていた」。福井市の向正彦さん(49)=仮名=の妻は、今年1月亡くなった。エンディングノートには「通夜も葬儀もせず(火葬だけの)直葬にして」とつづられていた。
「いくらなんでも」という親せきの反対で、直葬ではなく家族葬にした。通夜のときは一晩中、妻が好きだった坂本龍一さんの音楽を流した。
2年前に向さんの父が亡くなったときは、150人以上の弔問者があった。今回の家族葬は、せいぜい30人。しかし向さんは「ちゃんと妻を見送れたような気がする。あれで良かった」と振り返る。
ノートには「墓は、いりません。散骨してください」ともあった。妻の思いをかなえるため、骨壺(つぼ)は自宅に置いたままになっている。
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弔問を受け入れ通夜、葬儀を行う一般的な葬儀のほか、近親者だけの「家族葬」、通夜を行わない「一日葬」、そして「直葬」…。故人の見送り方が多様化している。
中でも小規模な葬儀が増えている。福井市のある葬儀社では、ここ3、4年で家族葬が急増し、葬儀の約3割を占めるまでになった。
理由の一つには高齢化や貧困がある。病院の延命技術が向上したことで、長い間病院で寝たきりとなり、亡くなるまでの入院費がかさむ。葬儀社「オームラ」(福井市)の新尋誠常務(47)は「入院費を払い続けてきたため蓄えがなくなり、直葬を選ぶ家族もいる」と話す。県内の葬儀社には「葬儀を安く済ませたい。家族葬はいくらかかるの?」。こんな相談もある。
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簡素化の理由に核家族化を挙げるのは、葬儀社「法美社」(福井市)の佐藤尚登業務部長(62)。「祖父母が子や孫に葬儀について伝える場や、仏壇がある環境が少なくなった」とし、別れの儀式に価値観を見いだせなくなっていると推測する。
「葬儀会館建設など利便性を重視した葬儀をすすめ、葬儀の意味や本質を訴えてこなかった業界全体にも責任がある」と話すのは冠婚葬祭業を営む「アスピカ」(同)の藤澤隆一はくれん事業部次長。その反省から、事前相談の場を利用して、葬儀の本質を伝えている。「いずれ葬儀自体がなくなってしまうかもしれない」という危機感も強い。
葬儀は故人への感謝と縁が集まる場所。弔問者が訪れることで、故人のつながりを家族が実感する場でもある。
しかし向さんは「僕たち夫婦はその必要性を感じなかった」。妻の墓はなく、自宅には仏壇もないが、妻の友達が時々やって来る。「これ持ってって」と、眼鏡などの遺品を渡すと喜んでくれる。向さんは「妻が大好きだった服やアニメグッズは大切に残しておく。それを見て、家族で思い出す。それでいいんじゃないでしょうか」。
ヒマワリが大好きな向さんは、娘にこう言っている。「お父さんが死んだら、どこかヒマワリ畑の近くに骨を埋めて」。半分冗談だが、それで十分とも思っている。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/fukuiwoikiru/120914.html
「だれが墓を守るのか」著者に聞く 第2景・お墓とお寺(4)
(2017年5月16日午前6時50分)
「今後、墓の継承は血縁より横のつながりが重要になる」と話す小谷さん=3月、東京都内無縁墓が全国的に増え続けている現状を描いた「だれが墓を守るのか」の著者で、第一生命経済研究所の主席研究員、小谷みどりさん(48)に、墓を通して見える社会の課題や今後の墓の在り方について聞いた。小谷さんは「自分をしのんでくれると思える相手がいることで、死への恐怖が安心感に変わる。血縁にこだわらず、生きている間に、まわりの人とどういう縁を築くかが問われている」と話した。
―「○○家の墓」というシステムが崩壊しつつある。
「ライフスタイルの変化より、長寿化の影響が大きい。例えば90歳で亡くなった場合、33回忌の法事は孫が担うことになる。核家族化の中で、孫が法事をやるだろうか。○○家の墓が続かないのは、ある意味当たり前」
―信仰心がなくなっているのでは。
「信仰心の実態は世間体だと思う。派手な葬式は、見えや世間体に影響を受けた慣習であり、それを寺は信仰が厚いと勘違いしてきたのではないか。今は地縁とともに世間体もなくなった。墓や葬儀は、亡くなった人と残された家族のリアルな人間関係が色濃く出るようになった」
―無縁墓が問題視されるようになった。
「無縁墓は1980年代からあったが、未婚や子どもがいないなどで家が途絶えた“かわいそうな人たち”という感覚だった。しかし最近は社会的な問題だと、みんなが気づき始めた」
―撤去すべきでは。
「市営墓地であれば、撤去・更地化には税金が投入される。しかし更地にしたところで次に借りる人がいない。だから放置しておいた方が得と判断している自治体は多い」
―高齢化社会で、墓は不足しているはずでは。
「反対に墓は余っている。理由は分からない。遺骨を捨てている人、家に置いている人が相当いるはず。弔われない遺骨が増えている」
―なぜ弔われないのか。
「90年以降、生涯未婚率が高まっている。近年は単身高齢者が増えたことで、生活保護支給件数が増えている。生きているときに手助けしてくれる人がいない人が、死んでから弔われることはあまり考えられない」
―無縁墓をなくすには。
「基本的に今の墓は永代使用。つまり代がある限り使用を認めるということ。それを20、30年など期限を設けて、それ以降は更新するシステムにすればよい。更新しなければ共同墓に移す」
「最近は老人ホームが、希望者の遺骨を納める共同墓をつくり、年に一度供養祭を開くなどしている。入所者にとっても、死後に対する安心感につながっている。これからの墓の継承は、血縁という縦のつながりより、横のつながりが重要になる」
―本では「死を考えることは生を考えること」と指摘している。
「葬式や墓に誰が来てくれるか想像してみてほしい。思い浮かばなければ、死後はこうなるという確証が何もないということ。であれば、生きているうちから、いろんな縁をつくる努力が必要」
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/fukuiwoikiru/121057.html
私がちょこちょこ見ている韓国に比べて、日本の変化はゆっくりゆったりしています。従来のお墓のあり方からの変容も、既にだいぶ前から進行していますが、その大きな流れが明らかになるまでは、まだ少しかかりそうです。今後もさらに、いろいろな試行錯誤が見られるはずです。
だれが墓を守るのか――多死・人口減少社会のなかで (岩波ブックレット)
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