日本人の出国率の低さ:「行かなくなった」ことよりも、「行かない人がずっと多数派のままである」こと

フォーブスジャパンに乗っていたこの記事、たいへん興味深く読みました。

訪日外国人の増加よりも日本人の出国率の低さが気になるというのは同感です。

政治経済 2019/04/10 06:30
訪日外国人の増加より、日本人の出国率の低さが気になる
中村 正人 , OFFICIAL COLUMNIST
国境は知っている! 〜ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル

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羽田空港国際線ターミナルの深夜便に並ぶ若い人たち

昨年の訪日外国人数は過去最多の3199万人だったが、日本人の海外旅行者数も微増(6%増)ながら1895万4000人(日本政府観光局)で過去最多だった。

日本人の海外旅行者数を押し上げたのは、韓国や台湾、香港など、近隣のアジア方面に出かける旅行者が増えたことにある。例えば、2018年の訪韓日本人は、前年比27.6%増の294万8527人(韓国観光公社)、訪台日本人も200万人強(台湾観光局)で前年より伸びている。

この数字から、「なぜ日韓関係がこれほど悪化しているのに、韓国を訪れる日本人が増えているのだろうか」と疑問を持つ人も多いに違いない。訪韓日本人の数は、2012年に過去最多の351万人となって以来、年々減り続けていたが、16年以降、再び増加に転じている。

その理由のひとつに、訪韓日本人の若年化があるようだ。年代別に見ると、以前は40代女性の数が最多だったが、16年以降は20代女性の数が最も多くなっている。

歴史問題を文化・旅行と結び付けない若年層

都内を代表するコリアタウンとして知られる新大久保を訪ねると、この現象もたちまち納得できてしまう。この街を行き交う人々のここ10数年の変化を眺めていると、かつて多く見られた中高年の女性の姿はめっきり減り、いまでは若年齢化が進み、ティーンエイジャーたちであふれている。

制服姿の高校生たちが、ジャンクな韓国式ホットドッグの屋台に並び、路上で立ち食いをする光景が日常となっているのだ。韓流や韓国コスメ、食材の店に群がるのも彼女たちで、まるで原宿のようなにぎわいだ。

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韓国式ホットドッグの屋台に並び、路上で立ち食いをする光景が日常

実際に韓国へ旅行に行くのは、もう少し上の20代の女性かと思われるが、とにかく若い人たちには、国どうしの政治の事情などまるで関係なさそうだ。羽田空港国際線ターミナルの、ソウル行き深夜便の乗客の大部分を占めるのも彼女たちである。

韓流好きの事情通に聞くと、韓国を訪れる日本人の若年齢化と、いまの若い世代がテレビをまったく観ないことには関係があるという。彼らが旅行のための情報を入手するのは、もっぱらYouTubeをはじめとしたネットメディアで、自分たちに近い年代のYouTuberたちが海外の街をそぞろ歩き、屋台で食事をする姿などを観て、旅のイメージづくりをする。

そして、実際に旅行に行くことが決まったとき、初めて旅行ガイド本を手に取る。若い女性向けのガイド本には、食や買い物、体験ツアーなどの情報のみがコンパクトにまとめられていて、旧来のガイド書ではページが割かれていた各国事情や、テレビをはじめとしたメディアが日々報じているような国際関係の話題とは無縁である。

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もはや韓流は小学生の心までつかんでいるという

若い世代のテレビ離れは進んでおり、近頃では小学生の中にも韓流動画を観ながら、韓国語を学ぶ子さえいるという。この話は、中国の多くの若い世代がネットに流通する日本のドラマやアニメを通じて日本語を覚えたというエピソードを思い起こさせる。

興味深いことに、韓国でも「歴史問題を文化・旅行と結び付けない若年層が増えている」(中央日報日本語版2018年09月11日)という報道もある。ことのよしあしはともかく、ネットがもたらす世代による情報環境の乖離は、各国に共通した現象といえるかもしれない。

こうした若い世代の変化はあるものの、全体でみると、日本人の海外旅行は久しく盛り上がりに欠けている。近隣アジア以外では、ハワイやグアムなどを訪れる人こそ例年並みながら、欧州方面への渡航者はテロやデモの風評も影響して停滞している。伸びているのは、LCCなどを利用した「安近短」の個人旅行というのが実情だ。

気になる数字がある。日本人の出国率の低さが、近隣アジアの国のなかでも際立っていることだ。たとえば、韓国の場合、人口約5100万人に対して出国者数は5344万人(2017年 韓国法務部)で出国率104.8%。台湾は人口約2350万人に対して同じく1565万4579人(2017年)で同66.4%。

一方、日本は人口1億2700万人に対して出国者数1895万4000人(2018年)で、14.9%という出国率は、韓国の7分の1、台湾の4分の1だとすれば、驚くほど低いと言わざるを得ない。

足を運ばず、情報だけで満足か

実は、この出国率の低さは最近のことではない。日本人の海外旅行者数は、すでに1990年代半ば頃から1600万人~1800万人の間で伸び悩んでいる。日本を訪れる外国人は著しく増えたが、日本人の海外旅行者数はこの25年間増えていないのである。

理由はいろいろ考えられる。国土の大きさの違いがあり、韓国や台湾など小さな国ほど出国率は高くなりがちだ。観光資源の集積度で日本が恵まれているのは確かで、海外に行かなくても国内で旅行を楽しめる環境にあるからと言えなくもない。

また、多くの日本人が、趣味やレジャーの多様化によって、海外旅行にお金をかける価値をあまり感じなくなっていることも挙げられるだろう。近年の近隣諸国との政治関係の悪化や朝鮮半島情勢にみられる国際社会の不穏な雲行きも、多くの日本人を内向きにさせるのに十分かもしれない。

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キャッシュレス化が乱立しているが、QRコードを使うのは訪日外国人全体の4人に1人の中国人のみ。残りの3人はカードで事足りるので、むしろカード決済の普及が先決ではないだろうか

とはいえ、近隣アジアの国々に比べ、これほど極端に日本人が出国しないというのは、さすがに心配である。ここで1人あたりのGDP(2017年)を比較しても始まらないかもしれないが、韓国(29位)や台湾(36位)は、日本(25位)より低いことを考えると、日本人の出国マインドの萎縮は、単に懐具合の問題だけではなさそうだ。

昨今では訪日外国人の増加ばかりが取り上げられがちだが、彼らが増えた理由は、結局のところ、経済成長で所得の向上した近隣アジアの人たちからみて、長期デフレの日本の物価が相対的にみて高いと感じなくなったからなのだ。これは日本人にとって素直に喜べない話だが、実際にアジアの国々を訪ねたことがある人なら実感しているだろう。出国率の低さは、この種の近隣アジアに対する理解も含め、日本人の情報格差を拡大しているおそれがある。

そもそも海外旅行に行く、行かないというような話は、人に無理強いするものではない。それでも、メディアやネットを通じて伝えられる海外の情報がどれほど公平で客観的なものなのか、自分なりの判断指標を持つために、自分で海外に足を運ぶことが、これほど必要とされる時代はないのではないだろうか。これは若い世代に対してより、むしろ、この国の大人たちに言いたい気がしている。

https://forbesjapan.com/articles/detail/26560/

関連して、こちらの一連の考察も一読の価値があります。

個人的には、出国率以前の旅券保有率に注目すべきではないかと思います。「パスポートを持っていない」というのは「過去、外国に行ったことがない」+「今後も外国に行く気がない」というのとほぼ同義です。日本人の4人に3人以上が(今も昔も変わらず)そういう人たちだ、というのが実態なわけです。

とすると、良し悪しは別にしても、「行かなくなった人」よりも「そもそもパスポート自体持ってない人」の方が問題としては大きいと思われます。

2019.02.22
日本人のパスポート保有率23.4%、4年ぶり上昇
ウイングトラベル

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外務省「旅券統計」、一般旅券発行数は5.3%増

 外務省がまとめた2018年(1-12月)の「旅券統計」によると、一般旅券発行数は前年比5.3%増の433万2397冊と4年連続で増加した。その結果、2018年12月末時点の国内在住者の有効旅券数は、前年比0.7%増の2920万3373冊となり、国内在住者のパスポート保有率は0.6ポイント増の23.4%と4年ぶりに上昇に転じた。なお、海外在住者も含めた有効旅券数は、0.7%増の2993万6470冊。

 パスポート保有率は、2006年以降右肩下がりで減少した後、2012年に23.8%、2013年に24.2%、2014年に24.2%と盛り返したが、その後再び減少。2015年は23.5%、2016年は23.1%、2017年は22.8%と低迷していたが、2018年は4年ぶりにプラスに転じた。

 なお、このパスポート保有率は都道府県別に算出するため、現時点で最新の都道府県別人口が公表されている前年10月1日時点(2018年であれば2017年10月1日現在)の日本人人口1億2464万8000人から算出している。ただ一方で、日本の人口減少は年々進んでおり、総務省公表の2018年9月1日時点の日本人人口(1億2425万9000人)に照らせば、日本人のパスポート保有率は23.5%となる。

 一般旅券発行数は“西高東低”、九州や四国2桁増
 有効旅券数は東北、中部を中心に16県で減少
 1都3県の有効旅券数1137万冊、シェア38.9%
 都道府県別パスポート保有率、東北3県で9%台
 0〜29歳女性で100万冊発行、男性と20万冊の差
 男性は30代と60代で旅券発行数減少

※写真=都道府県別の一般旅券発行数、有効旅券数(2018年末)、パスポート保有

※表=2018年の年代別・性別・月別・都道府県別の一般旅券発行数と、旅券保有率(
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http://www.jwing.net/news/9976