「内定取り消し」に対抗する方法

新型コロナウイルスの感染拡大がどこまでの事態になるか読めない中、「内定取り消し」への不安も増していますが、参照に値するいい記事が日経新聞に出ています。コンパクトに要点がまとめられていますね。

まず、「内定」は法的に「労働契約」が交わされた状態であること(→契約は守られなければならない)。企業が内定取り消し(「契約」の破棄)を行なうにはかなり高いハードルがあること。どのような状況であっても、内定者から辞退を申し出る必要はないこと。一人で悩まず、専門家に相談すること。

どれも大事で必要な、知っておくべきことです。こうしたケースで自分だけ泣き寝入りすると、それが悪しき先例となって他人にも影響が及ぼします。もし当事者になってしまった時には、あらゆる可能性を探って対抗してください。それが、仲間や後輩たちへの安易な内定取り消しを抑止する力にもなります。

新型コロナで「内定取り消し」 実は簡単にできず
2020/3/27 2:00 日本経済新聞 電子版

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コロナショックで苦境に陥った企業が新卒学生らの内定取り消しに及ぶ可能性が懸念されている(2019年3月の合同企業説明会)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、4月入社予定の新卒学生らの待遇が不安定になっている。入社予定の会社に内定を取り消されたり、当面の自宅待機を指示されたりした場合、法的にはどう理解し、どう対応すればいいのだろうか。

■内定は法的には「労働契約」

厚生労働省によると、3月25日時点で新型コロナの影響で学生の内定を取り消した会社は20社、計30名が確認されたという。新型コロナの世界的な流行で需要が急減し、対応に追われる企業が増えており、業績の急激な悪化も懸念され始めた。様々な会社で内定取り消しが発生する可能性がある。

内定取り消しに直面した人は、事態を法的にとらえることで、適切な対応をとりやすくなる。

内定は、法的には企業と入社予定者の間に労働契約が交わされた状態を指す。だから「入社予定者の内定取り消しは解雇に準じて考えるべきだ」(企業の労務に詳しい木下潮音弁護士)。労働契約法が定める「解雇権の乱用」の規定が適用されるため、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない内定取り消しは無効だ。

全国コミュニティ・ユニオン連合会全国ユニオン)によると、ある男性は2月下旬、中途採用で3月中旬に入社予定だった会社から電話で「仕事がなくなったので雇えなくなった」と告げられた。その会社の取引先は韓国や中国に多かったという。

■整理・解雇の4要件は

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こうした事態に直面した際に確認しておきたいのは、整理・解雇の要件だ。

企業が深刻な経営悪化などを理由として内定を取り消すことは整理解雇として認められる。ただし、▽人員整理の必要性がある▽解雇回避のために最大限の努力をした▽解雇対象者の選定が合理的▽手続きが妥当――の4つの条件をすべて満たすことが必要だ。

この4条件に当てはまる企業が内定取り消しをする場合も、厚労省の指針に基づき、▽ハローワークと学生の出身校に通知する▽就職先の確保について最大限の努力を行う▽補償などの要求に誠意をもって対応する――などが課せられ、社名も公表される。

つまり企業が内定を取り消すのは非常にハードルが高く、業績見通しが厳しいといった程度では認められない。労働問題に詳しい嶋崎量弁護士によると、内定取り消しが有効になるのは、倒産が不可避だったり倒産を避けるため整理解雇が欠かせなかったりする場合に限られる。

では、内定取り消しを言い渡された人はどうすべきか。嶋崎弁護士は「学校の就職課やハローワークの専門窓口に相談すると良い。厚労省の指針に基づき企業に補償などを要求できる可能性もあるので、弁護士や連合などの労働組合に相談するのも有効だ」と話す。労働組合は労働問題に関する無料の電話相談を行っている。

実は内定取り消しより可能性が高いとみられているのは、企業が内定者に4月以降に自宅待機を命じるケースだ。企業側の責任で社員を休業させた場合は、労働基準法に基づき社員に平均賃金の60%の休業手当を払わねばならない。内定者は、自宅待機の間の休業手当が支払われるか、会社に確認した方がいいだろう。

■入社辞退を求められても「応じない」

専門家が今後増えると予想しているのが「内定者に対する入社辞退の強要」だ。内定取り消しによるトラブルを避けるため、例えば学生を呼び出して、「会社の業績が厳しい」「入社しても仕事がない」「あなたがやりたいといっていた希望の仕事につけられない」などと説明して、内定辞退を促す場面が増える可能性があるという。

嶋崎量弁護士は「立場の弱い学生などは、企業側の働きかけに応じてしまうケースも考えられるが、応じる必要はない。会社側が事実上、一方的に内定を取り消す権利はないので、簡単に応じてはいけない」と話す。

企業から内定取り消しを示唆された場合、学生らは「この会社に抗議するより、早く次の就職先を探さなければいけない」、「相手を訴えたりすれば今後の就職に不利になるのではないか」と考えがちだ。被害に遭っても泣き寝入りしてしまい、問題が表面化しにくいという実態がある。

誰も予想しなかったコロナショック。だが企業にとって事実上の整理解雇に相当する内定取り消しのハードルは高い。学生側も友人の噂話やSNSなどの情報に惑わされず、まずは大学就職課など専門家に相談してほしい。

編集委員 渋谷高弘、渋谷江里子)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57230850V20C20A3000000/