続・朝日新聞国際欄の猫記事

こちらの記事の続編になります。韓国の猫カフェについては、下記の記事もどうぞ。

ソウル・明洞の猫カフェ

韓国の猫カフェ

不吉は昔 ネコ人気 韓国 動物たち(6)
2010年8月7日

■日本の文化流入

 「きゃあ、かわいーっ」

 7月初めの週末。ソウルのとあるカフェには歓声が響いていた。若い女性の視線の先には、物憂げに床に寝そべる猫がいた。

 若者でにぎわう地区にある「ジオキャット弘大店」。8千ウォン(約600円)払えば、ドリンク1杯付きで思う存分猫と過ごせる「猫カフェ」だ。ロシアンブルーやスコティッシュフォールドといった輸入猫が店内をのんびりと歩き回っている。

 日本で猫カフェのことを知った人らがここ数年、ソウルで相次ぎ開店し、5〜6店に増えた。週末にもなると入店待ちが出て、店にいられるのは2時間までという人気ぶりだ。客の多くは20〜30歳代前半の女性やカップルだ。

 韓国の猫好きはもっぱら若い世代で、ソウルの会社員、申東奕さん(31)もその一人。自宅で2匹飼うが、もっとさまざまな猫を見てみたいとやってきた。一人暮らしを始めた3年ほど前、寂しさを紛らわす「パートナー」として猫を飼い始めた。「声をかけても無視されることもあるし、飼い主に服従しないのが魅力かな」と笑う。帰宅したときに「遅くなって悪かったね」などと話しかけるのが気分転換にもなるという。

 ソウル西部に隣接する富川市には、300万ウォン(約22万円)もするスフィンクスなど輸入猫を取りそろえるペット店もできた。猫中心の店は珍しい。経営者の趙春元さん(32)によると、客の約7割は富裕層が多いソウル南部から。釜山など遠方の顧客もいる。もとは犬が中心だったが、4年前に猫中心に変えた。ネット上では「猫」「販売」が検索語ランキングの上位になっていたが、猫を買える店は少ない。「先に手がければ市場をとれると考えた」

 すぐには売れなかったが、有名芸能人に猫を贈って間接的な宣伝効果を狙うなど努力を続けた。作戦が奏功してか、1年ほどで黒字に転換、年々売り上げを伸ばしている。「ソウルにも店を」との要望も多く、フランチャイズ展開も検討中だ。

 猫愛好家による韓国猫協会ができたのは1999年。同協会によると、韓国で猫を飼う人は推定で15万人を超え、この5年で3倍以上に増えたという。ペット店や動物病院が集まるソウル・忠武路で長く営業するペット店主の金基演さん(38)も、変化を実感している一人だ。「10年前は猫を買う人はほとんどいなかった。今は2〜3割が猫ですね」と話す。

■世代間でギャップ

 韓国で、身近な動物として親しまれているのは圧倒的に犬。猫には「不吉」というイメージがある。「妖物」などと呼ばれるのが象徴的だ。今も中年以上の世代には毛嫌いする人が多い。

 「街で猫を見かけると、ああ気味が悪い、という反応が大半でしたね」と話す猫協会の辛正珍会長(42)によると、「夜の眼光が不気味」「鳴き声が赤ちゃんの泣き声に似ている」といったことが猫を嫌う理由としてよく挙げられるという。「ドラマなどでも多くの場合、不吉の象徴として描かれていた」(ペット店経営者)。1990年代までは猫を飼う人はほとんどいなかった。

 変化が生まれたのは2000年前後だ。インターネットの普及で日常生活に入り込んでくる情報量が飛躍的に増え、迷信や既存の価値観に左右されにくい若者に、猫が魅力的な存在として受け止められ始めた。

 なじみが薄かった外国産の猫が、テレビドラマの主人公のペットなどとして登場、芸能人らが愛猫のことをブログに書くなどして一気に身近な存在になった。

 日韓交流の拡大も作用している。招き猫、ハローキティなど、猫が可愛くポジティブなイメージで登場する日本の文化や漫画、ドラマなどが韓国でも広く知られるように。猫カフェの本棚には、日本の猫関連の雑誌が何冊も並ぶ。

 住宅事情もある。都市化に伴いマンションなど集合住宅に暮らす人が増え、静かで手間のかからない猫がペットとして浮上したというわけだ。

 ポータルサイトには猫好きが情報交換する交流の場がいくつもでき、ネット販売の業者も増えた。ただ、「送られてきた猫が病気にかかっていた、といったトラブル相談も増えている」(消費者団体関係者)という。

 若者の間では急速にイメージ改善が進む猫だが、世代間のイメージギャップは、そう簡単には埋まらない。猫カフェを訪れたソウルに住む女子大生(19)は「家でも猫を飼いたいけど、両親の世代は拒否感が強いみたい。『絶対ダメ』、の一点張りです」と苦笑した。(ソウル=稲田清英)

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 〈韓国の犬猫〉 韓国国立獣医科学検疫院によると、韓国で猫を飼っている世帯の割合は1.7%(2010年5月時点)。うち「猫だけ」をペットにしているのは1.1%。犬だけを飼う家庭は15.7%とまだ犬の方が圧倒的に多い。ただ、金融危機など経済悪化の影響もあってか犬を飼う家庭の割合は前回調査(06年)より減ったが、猫は逆に増えている。

http://www.asahi.com/international/weekly-asia/TKY201007310234.html