新型コロナウイルスの渦中にある大阪釜ヶ崎・あいりん地区の現在

先日歩いてきたところのことを書いた記事が見れる今のうちに。

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あいりん地区の「コロナ禍」の実態を追った記事ですけど、結果として「実態がなかなか見えてこない」ということが明らかになっています。昨今の新型コロナウイルス禍がこの地区の住人にまったく影響を与えていないとは考えにくく、そのへんのことがわからないというのはちょっと怖い状況です。

コロナ禍、労働者の街は 大阪・釜ケ崎を歩く
「今日をしのぐ方が大事」 感染リスク周知に支援者苦慮
2020/5/4 07:00 (JST) ©株式会社全国新聞ネット

 日本最大級の日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区のあいりん地区(通称・釜ケ崎)。通りを歩くと、雑多な荷物に囲まれて段ボールで寝る路上生活者や、炊き出しに並ぶ中高年男性の列が目に入る。日本列島を襲う新型コロナウイルスは、例外なくこの街にも影を落とす。鼻をつく臭いが時に漂う衛生環境の悪さから、医療関係者は感染リスクを懸念するが、住民への予防周知は困難を極める。炊き出しが中止に追い込まれるなど、支援団体は対応に苦慮している。(共同通信=須賀達也)

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大阪市西成区のあいりん地区に張られた新型コロナウイルスとの闘いを訴える紙=4月16日

 ▽マスク姿まばら

 「世間はコロナで騒いでいるけど、この街では今日をしのぐ方が大事」。政府による緊急事態宣言発令後の4月中旬、あいりん地区の一角にある公園にいた無職男性(64)はこう語った。

 周辺でマスクを着ける人の姿は増えてきたものの、まだまばらだ。公園に集まり昼間から酒を飲む人たちもいる。男性は「(感染拡大は)正直に言うと実感ない。俺には関係ないよ」とあっけらかんとしていた。

 一方で、通りには「コロナウイルス(肺病)戦争だ。西成出サナイ、出ナイ」と書いた張り紙。誰かが集めた空き缶で作られた約3メートルのタワーの頂上には、人気アニメのキャラクター人形と共に「コロナくるな」と書かれた紙が掲げられていた。

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あいりん地区の一角にある、空き缶で作ったタワーと「コロナくるな」と書かれた紙=4月16日

 ▽高い結核罹患率

 同地区の関係者で4月末現在、感染確認が公表されたのは、「あいりん労働公共職業安定所」に勤務していた職員4人のみ。感染経路は不明だが、日常的に労働者への対応に当たっていたため、ある支援団体職員は「感染者が職安の職員だけとは考えづらい。既に地区全体にウイルスがまん延している可能性が大いにある」との見方を示す。

 あいりん地区は約0・6平方キロメートルの面積に簡易宿泊所(ドヤ)が密集。高度経済成長期に集まった労働者が年齢を重ね、高齢化が進む。西成区によると、免疫力が低下した人も多く、全国的に見ても結核の罹患(りかん)率が高い。

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 地域医療を支える病院関係者は「防疫という概念に乏しく、感染症に無頓着な人が多い」と指摘。継続治療のため通院や入院を勧めても、断られるケースが珍しくないという。新型コロナは基礎疾患があると重症化しやすいため、深刻な事態になることを懸念する。

 ▽衛生面に課題

 地区の高齢者看護を手掛ける「山王訪問看護ステーション」代表の吉村友美さん(37)によると、労働者や生活保護受給者が多く身を寄せる簡易宿泊所や福祉アパートは、部屋は個室だが、炊事場や風呂、トイレは共用が多い。衛生面で課題があり、マスク着用の習慣も根付いていない。

 吉村さんは3月中旬から「あいりん手作りマスクプロジェクト」と銘打ち、インターネット上で協力者を募集。マスクを地域住民らに無償で配布している。1カ月で千枚以上集まったが、吉村さんは「経済的に困窮している人が多く、自分でマスクを用意する余裕はない。まだ足りない」。引き続き支援を呼び掛けている。

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路上生活する男性。段ボールや多くの荷物に囲まれて過ごす=4月16日

 ▽「もう限界」

 仕事をあっせんする西成労働福祉センターの担当者は「求人数は明らかに減った」と話す。年度末は例年、追い込みのため公共工事関係の働き口が多いが、今年は感染拡大のため落ち込んだ。建築資材や部品の多くは、中国からの輸入に頼っている面もあり、雇用回復は見通せないという。日雇いで生計を立てる男性(48)は「明日食う飯の心配ばかりで、もう限界」と肩を落とす。

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炊き出しに並ぶ路上生活者ら=4月16日

 全国民に一律10万円を支給する国の特別定額給付金は、ホームレスも対象。政府は住民登録する市区町村に郵送などで申請できるとしており、銀行口座がない場合は窓口で給付するという。だが、周知は難航しており、実際に全員の手に渡るかどうかは不透明だ。

 コロナの影響は労働者支援団体の活動にも及ぶ。毎月1回、カレーの炊き出しをするNPO法人「炊き出し志絆(しはん)会」は、調理場を借りていた施設の休止で3月から活動を断念。他の団体もスタッフを集めるのが難しくなり、自粛に追い込まれた。路上生活を送る男性は「炊き出しでみんなと定期的に会えるのを楽しみにしていた。人との交流が減るのは寂しいよ」と漏らす。

 ▽地域と行政で対策を

 そんな中、今も活動しているのは、毎日昼と夕方に約140杯のおかゆを配る「釜ケ崎炊き出しの会」。45年間、地震や台風などの自然災害時も、バブル崩壊による不況時も活動を続けてきた。代表の稲垣浩さん(75)は「人は食べないと生きていけない。大変な状況だが、待っている人がいる限り続ける」と話す。 

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炊き出しのおかゆを食べる男性=4月16日

 収入が低く生活拠点のない人たちが無料で泊まれる市の「あいりんシェルター」(定員532人)は現在、5割程度の稼働率だが、休業要請が出たインターネットカフェの宿泊者や、コロナショックによる失業者が流入してくる事態も想定される。

 シェルターを運営するNPO法人「釜ケ崎支援機構」の松本裕文事務局長(51)は「このままでは入所者が増え、感染リスクが高まりかねない。支援スタッフは疲弊しきっており、地域と行政が一体となって対策を取るべきだ」と訴えた。

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